第2章


「よい…しょっと!」

掛け声と共に洗ったシーツを広げ、紐に引っ掛けて洗濯バサミで留める。
あれから一週間が経ち、船内の業務にも大分慣れてきたマツリは一人で様々な事ができるようになっていた。
元々ムマジと二人暮らしで、向こうが高齢者だったことから家事はある程度身に付けていたので、すんなりと業務を身に付けることができた。「強いて言うなら、あとは舵のきり方や航海術を学ぶだけだな。」と船長に言われた。
「マツリちゃん、これ追加の分。」
と籠一杯の洗濯物をサナが運んできた。
「あ、ありがとうございます!」
「お願いね~。」
サナの話し方は最初驚いたが、話し方で人が決まる訳でもないし、見かけが歪な自分よりよっぽどいいと思う。何より優しく接してくれるので、最初酷い対応をしてしまった罪悪感を抱いていたが、この優しい話し方には救われた。
ずっしりと重い籠を受け取り、また作業を再開する。

すると。

(…またかな?)

後方から何か視線を感じる。
くるりと後ろを見ると、こちらの視線に気づきパタパタと逃げていく小さな影を見つけることができた。
逃げたとしても、一人しか思い浮かばないし、加えてマツリの目には現実にあるものなら大概見えてしまうのだが。

「おうおう、監視されてるね~。」
にししと頭上から憎たらしい声がする。
マツリは仕方なくバンダナを下げ、鏡を出し自分を睨みつけた。
「言われなくても知ってる。」
「やっぱり観察対象にすると、お前面白いんだろうな。」
実際オレも楽しいしと余計な一言が出る。
口が見えない目玉の癖におしゃべりなコイツの方がよっぽどだと思うが、それは流しておく。
一週間が経ち、海賊たちともそれなりにコミュニケーションが取れてきていると思っているが、一人まともに声もかけられない人物が一人いた。
それが先ほどの人物である。

「…ガーナちゃん。」

この船内の中で最年少である、女の子。褐色の肌にエメラルドの瞳、茶色の髪は変わった髪型にしてある。
くるくると動き回るその様子は愛らしく、ノイとのいがみ合うようなやり取りも見ていて微笑ましい。
しかし、その面をマツリに対してガーナは見せていなかった。
声を掛けようにも、すぐに逃げてしまったり、他の人に話しかけたりされ、まともに話ができない。

いや、たぶん原因はそれだけじゃなくて。

『バケモノッ!』
『こっちくんな!』
『出ていけよ!』

「…っ。」
ふるふると頭を振る。
分かっている、自分がその部類だという事は。
周りの人と違う事なんてとっくの昔から教えられてきた。

けれど。

「…苦手だな。」
小さな声は波の音にかき消された。
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