第1章(後編)


「…それ、話せたんだ。」
驚きの表情で船長はまじまじとマツリの第3の目を見た。
「どうも、ただのしがない目玉で~す。」
「ほんと、お前静かにしろ…。」
マツリはとっさに出てしまった暴言が恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしている。
「名前はあるの?」
「そうだな~目玉おやj」
「ありません、そんなもんなくていいです。」
禁句ワードを言う前にマツリがそれを防いだ。
「ひど~い、これでも保護者の一人なのに…。」
「お前をそう思ったことは一度もない。」
「キビシー!」
目玉の表情は読み取れないが、マツリはこれでもかと言うように鏡越しで目玉を睨みつけていてシュールに映る。
「う~ん、名前がないのも不便だな…。」
「いいですよ、こんなのに…」
「できた。」
「早いですね。」

「…“ミツメ”でどうかな?」

意味深に呟くその名前にマツリはまた同じようにいらないと言おうとしたが、目玉はそれを遮る。
「いいね~まんまだけど。」
「でしょ?」
「…もうお前勝手にしゃべるな。」
マツリはバンダナを元の位置に戻した。
「…お前のあの声、コイツが話していたのか。」
「はい…。」
ノイの質問にマツリは答える。
「この目玉がどんな構造をしているのか全く見当がつかないんですけど、声帯とか無くてもなんか色んな声を出せるみたいで…。」
「へぇ…。」
さてと、と船長はマツリに声を掛けた。
「旅の準備は大丈夫?」
「はい…浜辺のところに置いてきました。」
「そう、じゃあ…最後の挨拶してきなよ。」
そう言って背中をやんわり押された。

浜辺に降り、荷物を取って島民の皆と目を合わせた。

決していい思い出ばかりではない。
寧ろ苦しめられたことさえあった。
けれど。

「…いってきます!」

晴れやかな笑みを向ける。
その顔するだけで、その言葉を出すだけで、全て赦せた気になる。
今は到底女神なんて名前は全く合わない。
だけど、いつか。
心の底から笑って言えるような大人にはなりたいと。
そう思いながら。

マツリは新たな一歩を踏み出した。


これはきっと、どこにでもある物語。
けれど、いつか。
世界さえ巻き込むような種を孕んだ物語。

これは、その序章の1つに過ぎない。

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