第1章(後編)
きっと。
叫び声とか、自分を非難する声が飛び交うだろう。
そう思ったマツリはギュッと目を瞑った。
しかし。
「君、早く離れ…ゲフゥ!!」
メソドの声がしたかと思ったら、しっかりと両肩を掴まれ、マツリは体を硬直させた。
目を開けた先の光景は、メソドが船長に船の隅にふっ飛ばされたらしく、他の仲間たちに囲まれていた。
しかし、それよりも。
眼前にこちらを睨むように見る船長に注目せざるおえない状態になっていた。
「マツリちゃんって…」
「えっ、はい!?」
「ひょっとして、“ミツメ族”の末裔!!?」
これまでに聞いたことのない大声を目の前で言われ、マツリは鼓膜に痛みを覚えた。
「…っつう!?」
「いや、正直核心とまで言わないけど詠唱とか無しで幻術を見せられるとか魔法道具的なものを持ってんのかなとか思っていたけど、これは予想外!!」
「えっと、あのぅ……。」
「いや~まさか第3の目を持つとされる一族の末裔に会えるなんて…正直伝説上の人物か絶滅したのかどっちかなとか考えていたけど…はっ、君がそうならもしかしたら他の島民も!?」
「べらべらしゃべるんじゃねぇ!!」
ここでマツリに助け舟が出された。
ノイが横から船長に向かって蹴りをいれたのだ。
「いったい!」
「…ごめんね、この人不思議大好き人間だから。」
さらりとサナがマツリに謝罪をする。
目まぐるしく話題が変わりマツリはおろおろしていたが、船長のある言葉を思い出し、また話を始める。
「あの船長さん…すみません。」
「え~何が?」
「…あたし、孤児なんです。」
その言葉で、また周りが静かになる。
「箱に詰められて海に流されたらしくて…この島には血縁と呼べる人はいません。」
それからマツリは黙ってしまった。
船長の近くにいたノイはその体をつついた。
「…分かっているよ。」
のんびりとそう言って、また船長はマツリの目の前に来た。
「で、マツリちゃんはどうしてこの船に?」
「…会いたいんです。」
下を向いていた顔を上げ、訴える。
「あたしと同じ瞳を持つ人に。」
マツリの一言を聞き、船長はふぅと息を吐くとこう答えた。
「じゃあ、決まりだな。」
「船長!」
メソドがまた声を上げる。
「もしかしたら、マツリちゃんが求めているものは、俺たちと同じところにあるかもよ?」
「…っ、そうかもしれませんが。」
「あとさぁ…。」
と船長は島の方向へ指を指した。
「アレを見て、まだそんなこと言える?」
その場にいたその他の人物たちも、その方向へ目を向ける。
そこには、『いってらっしゃい、マツリ!』と書かれた旗が掲げられていた。
それだけではなく、島民たちが全員と言っていいほどの人数が集まっていた。
こちらが見たのを気づいたのか、それぞれ何か言っているが色々言いすぎて何を言っているのか分からない。
「…何、あれ。」
「え、マツリちゃん、皆にも言ったんじゃないの?」
そんなことしてないと言いそうになったが、島民たちの中にまぎれて憎たらし気に笑う老人の姿を見て、渋い顔をした。
(じっちゃんか…。)
犯人が分かりげっそりとしているマツリを見ながら、船長はこう言った。
「えっとぉ…意見聞きます、マツリちゃんが船に乗る事に反対の人~?」
おどけるような言葉に、それぞれの反応が返ってきた。
「あ~もう、勝手にしろ!!」
「別に俺は元から別に良かったけど。」
「まぁ、本人の意思があるのなら…。」
「…いいと思う。」
船長は答えを聞いて、今度はマツリに問う。
「マツリちゃんは?」
「…へ?」
「本当に良いの、俺たちで?」
ゆっくりと問われる。
マツリは少し間を置いてから、返答した。
「…はい、貴方がたの船がいいです。」
「告られた~。」
「へあっ!?」
「どうしよ~もう30歳だけど、こんなストレートな事言われるとおじさんでもときめくねぇ~。」
「…ごめん、この人大体このノリだから無視して。」
「は、はぁ…。」
「メソド、酷いな~俺はいつだって真面目」
「日頃の行いを見直してから発言してください。」
それから船長とメソドの会話の応酬が始まり、どうすれば良いか分からず、他の3人に目線を送るが、全員首を振るだけだった。
すると。
「良かったな、マツリ。」
低い男の声がした。
聞き覚えのある声にノイとサナは顔を見合わせた。
「あ、これって?」
「貴方の声では…?」
しかし、マツリは全く口を動かしていない。
更に声は続く。
「いや~ずっと見守ってて引きこもった時はどうなることやらとか思ったけど、14歳になってまさか旅をするという選択肢を選ぶなんて思いもしなかったね、なんか変人だらけっぽいけど保護者として安心したというかなんというか…」
べらべらと話を続けるその声は、マツリが怪盗の時に使っていた声であった。
しかし、今のマツリは全く口を動かしていない。
ただ、話が進むにつれ表情が硬く、険しいものへと変貌してきている。
「まぁ、ともかくマツリをよろしくね☆」
そんな言葉で締めくくられ、マツリは自分のハーフパンツから鏡を取り出し自分を見てこう叫んだ。
「何がよろしくだ、この腐れ目ン玉が!!!」
今まで丁寧に海賊たちに対応していた少女の影はなく、ただ野蛮な言葉を吐く少女がそこにいた。
