第16章

丁寧な対応とは打って変わり、謎の液体を頭から被された面々と離れていた女子達は一様に面を喰らった表情をしていると、主犯である役員がからからと笑う。
「今のフェスティバルに合わせ、大人の方々はお酒を浴びてから入って頂くというしきたりなのです…あぁ、弱いものなので酔う事は基本ありませんよ。」
ご安心を、と差し出されたタオルを何とも言えない顔で彼等は受け取り、黙々と顔と体を拭く。
「ちなみにこのお酒はお土産におすすめのプルー酒という、女性でも飲みやすいジュースの様なものでして…よろしければお買い求めください。」
最後まで宣伝を忘れずに「それではいってらっしゃ~い。」とひらひらと手を上げて外へと続く扉まで案内され、役員達とはそこで別れた。

「―その、皆さん…大丈夫ですか?」
島に入る為とはいえ、唐突に酒をぶっかけられた面々はリアクションも様々だった。
「いや、びっくりした~、お陰で目が覚めたわ。」
ひたひたに酒で浸されたコートを取りながら笑う船長。
「…後で着替えなきゃ。」
明らかに不服とばかりに薄ら苛ついている様子のサナ。
「うめーな…プルー酒?だっけか…買いに行くか。」
自分に掛かった酒を舐めて、早速買い物の意欲を上げているノイ。
「………。」
無言のメソド。
やはりメソドはお酒が苦手なのだろうか、そう思いマツリはその顔を覗き見ようとする、その瞬間。
「マツリちゃん、止めて!」
悲鳴の様な声が上がり、もしや自分は悪い事をしたのかとその身を縮めてしまうが、それは違った。
目の前にいたメソドが一瞬にして消えて、彼女は後ろを振り向く。
海賊達の輪から離れ、ふらふらと体の軸を揺らしながらも立つ青年は明らかにいつもと様子が違っていた。
「ひ…っく………ひ、ひひひ!」
いつも不愛想なその顔が歪み、明らかに異様と言える様な笑みが浮き上がってくる。

「ひっくく…せっかく…うめーさけ、のめるんだ…ひっ…なぁ、がまんできるわけなんてねーよなぁ!?」

ちょっくらぁのみいってくらぁ!と破顔一笑の顔で持ち前の素早さを持った足を全開に活用し、彼はその場から走り去ってしまった。
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