第1章(後編)
「…で、結局教えてもらえなかったのか?」
ごそごそと出立の準備をしながらノイは船長に聞いた。
「ああ。」
「何だそれ、約束破られてんじゃねぇか。」
「でも、俺たちが出立する前には来て話してくれるって約束してくれたんだけど・・・。」
きょろきょろと周りを見渡すが、辺りには誰もいなかった。
「…騙されたんじゃねぇか?」
「え~そんなふうには思えなかったけど…。」
「女の子は男を騙すようになって一人前になるのよ?」
話を聞いていたのかサナが割って入ってきた。
「え、俺騙されてたの?」
「おい、そのふざけた言葉はどうにかなんねぇのか。」
「や~ん、ノイちゃん冷たい。」
「やかましい。」
「でも、この言葉であの人…メアンは騙されたのよ?」
「…でも、色々無事に終わって良かったな。」
船長とマツリが話をした翌日にはメアンに化けたマツリが領主を振り、錯乱した領主はもう何もかもどうでもいいというようにすべてに自棄になった。おかげで自らの罪も認め警察からの取り調べも滞りなく進んでいる。サムは養子としてムマジのところに身を寄せる事にしたようだ。島民たちからお礼にと様々な品を受け取り、後は船長にとって一番興味を注がれるマツリの話を聞くだけだった。
「ところで、船長。」
ふとサナが話しかけてきた。
「何だ?」
「わたしのお裁縫セット知らない?」
裁縫はサナの趣味の1つであり、それをサナが失くすのは珍しいことだった。
「あれ、無いの?」
「確かに部屋に置いてあったはずなんだけど…。」
「船長、救急箱使ってません?」
「ガーナのお菓子知らない~?」
次々と何か物が無くなっている様子に船長は船の先端を見た。
「予告ってさ、その日のうちに実行するものじゃないの?」
これじゃあ詐欺じゃんと誰もいないはずの場所に向かって話す。
するとその場所が蜃気楼のように景色が歪み、とあるものを映し出した。
「…結局ばれてるじゃないですか。」
少し不貞腐れたような顔をして海賊たちが探していた物を持っているマツリが姿を現した。
驚く仲間たちを背に、船長はマツリに話す。
「わざわざこんなこともうしなくてもいいのに・・・。」
「…井の中の蛙状態だったとは言え、負けたのは悔しかったので再挑戦させていただいた次第です。」
「今度は正々堂々としようね~。」
苦笑いを浮かべる船長の顔をまっすぐマツリは見て、深呼吸を1つしてから言葉を出した。
「あの!」
「うわっ、びっくりした…何?」
「この物は全部返します、ですが条件があります。」
「…条件って?」
その場の全員の注目を浴びて、マツリは条件を出した。
「このっ…船に乗せて頂けませんか!?」
