第1章(後編)
「ここで話す方が、個人的に落ち着くんです。」
マツリは船長を屋根の上まで案内した。
「お~、良い景色だ。」
窓から外に出た船長は、周りの景色をその瞳に映した。
「この前の海も綺麗だったけど、夕方もいいな。」
「…この前、とは?」
「マツリちゃんが、スケッチブック持って俺に話しかけた時。」
マツリの顔見て話す顔は、意地悪い表情をしていた。
(…ばれてたのか。)
船長が言っているのは、今の姿とは違う姿で船長と接触した時の事を言っているのだ。
そう、黒髪の女の子でスケッチブックを持った姿の。
「今更だけどさ、何でスケッチブック?」
話しをしにきただけならば、要らない小物だろうと船長は聞いた。
「…持っていると、安心する物なんです。」
素直にマツリは答える。
「趣味で絵を描いているんです、それでスケッチブックが友達のような物でして…。」
「なるほど。」
「…あの、あたしからも質問いいですか?」
「どうぞ。」
了解を得て、マツリは一呼吸を置き船長に話しかける。
「その、何故あんなに法律の事について知っていたのですか、貴方はここの地方の出身ではありませんよね?」
「ああ、俺はこの地方の出身じゃない…が。」
夜風が外にいる2人の髪を揺らし、その心地よさに船長は目を細めた。
「元々は外国をまわる仕事をしていたんだ、その関係で法律によるトラブルとかの対策で大体の国の法律は頭に叩き込んだ。」
「…もしかして、貴方たちは海賊ではないのですか?」
「あれ、海賊だってばれてたの?」
お互い予想もしない言葉に驚く。
「えっと……。」
「見えないくらいの位置で陸につく前に海賊の旗は降ろしたはずだけど…望遠鏡とかで覗いていたの?」
それともそれも術の一つなのかなと聞いてくる船長の視線を受けて、マツリはそれから逃げるように顔を背けた。
「…まぁ、そういう事にしておいてください。」
「分かった。」
それと、と船長は別の話題を出した。
「意見書はともかく、俺たちがやったことはそれこそマツリちゃんと同じで犯罪だから、警察に化けて騙したことやメアンにしたことは隠してね。」
「……。」
「屋敷で拘束されている領主本人には、明日メアンに化けたマツリちゃんがさよならと言えば放心したら、言うことは大概聞いてくれると思うけどね~。」
できるよねと言われ、マツリはコクリと頷いた。
「盗みはすべて領主が犯人として、告発するつもりだから…もう頑張らなくていいよ。」
少しトーンを低くした声がマツリの耳に届く。
「この島を見聞きして思ったけど今回の問題が起きたのは、ただ領主たちがいたせいだけではないと思うんだよね。」
唐突に話し始めた内容にマツリは目を見張ったが船長は構わず口を動かす。
「アイツら…仲間たちにも言ったんだけどさ、この島平和過ぎる。」
「平和…過ぎる?」
「うん、法律が批准されたのも遅いっていうのもあるけど、平和過ぎていざピンチになった時の対処法を皆知らなかったように思ったんだよね。」
「……そう、ですか。」
「それと怪盗がいるって最初知った時は、やっぱりおかしいなって。」
「何がですか。」
「割と小さいこの島で皆が知り合いっていえるような環境で犯人が捕まらないのはおかしいなって。」
容疑者の数が限られているのに、捜査が難航するのは変だよね~と何でもないように船長は話すが、マツリは驚きっぱなしだった。
今までちゃらんぽらんな印象だったこの男が急に賢く見えてきたから。
(…本当に、何者なんだろう。)
まじまじと船長を見ていたら、船長が苦笑した。
「…そんなに見られるとな。」
「あっ、すみません!」
「謝ることじゃないけどね。」
さてと、と船長はその場から立ち上がりマツリを見下ろし告げた。
「これで俺が君に伝えたいことは終わり、今度は君の番。」
