第15章

繭はじゅるじゅると薄気味の悪い音を立てながら小さくなってゆき、しまいにはまるでそこに初めから男なんていなかった様なただの細い管となって、頂点にあった蔓はふくふくと養分を吸ったとでも言う様に膨らんでゆき大きな赤い花を咲かせる。
一部始終を見ていたサナは、その異様に美しい光景に腹の底から冷えた気分になっていた。
そして、今自分達を包んでいるこの繭も同じものだと気付き、どうすればいいのかと目を動かしていると、下からツンツンと頬を突いてきた。
「な、に…?」
上手く話せない、それまでに追い詰められていたサナに子どもはその感情が読めない顔で、外を指差す。
「そこは閉められていて出れな…」
子どもが指差した箇所から、どうぞとでも言う様にすすすと蔓が自分から動いて出口を作ってくれる。
開いた開いたとばかりにサナから離れ出口へ向かう子どもを見て、サナは一瞬ぽかんと見つめるだけだったが、すぐに正気に戻り「待ちなさい!」とその後ろ姿を追う。
子どもに合わせる様に蔓はくにゃりと曲がり船の床に降りやすい形を取り、彼等はそのまま無事に繭から出て、部屋の床へ来た。
(…正直、罠かもしれないと思ったけど。)
先程の男の様に外へ出すと思いきや、そのまま捕食されるかと思ったのだが。

目の前の光景は、その恐ろしい未知の植物は子どもに頭を垂れる様にその花を床に付け平伏している様に見え、対して子どもは、無邪気にその花をよしよしと撫でていた。

(理由は分からない…けれど、この植物は明らかにこの子どもに従っている。)
その他自分が分かる様に現状を理解しようとするが、どれもこれも現実離れ過ぎて頭が熱を持ち始める。
(拾った時点でもう少し質問責めにするべきだった…。)
とりあえずこの後は船長の元に突撃しなければならない、そう決意したサナだが、まずやるべき事を上から聞こえる喧嘩の声で思い出す。
「―わたしは上に戻ります、貴方はその植物と一緒に」
「う!」
分かっているのかいないのかサナの言葉は遮られ、そのままサナの片足にぎゅっと抱き着く。
こんな行動を起こした事が無かった為、サナは目を見開くと、意思の強い瞳が大人に訴えている。
「…一緒に行きますか?」
「うー!」
抱き着くその力の強さから離れないと言う様な意思表示だったので、サナは説得を諦めてそのまま行く事にした。

ずるずるずる…

聞きなれない音がして振り向くと、先程の植物も自分達に付いて来ようとしている。
「…これも一緒に?」
「う!」
当たり前だろとでも言うようなその返事にサナはがっくりと肩を落としてから「………行きましょうか。」と何もかも諦めた様な低い声で呟いた。
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