第15章

海賊という存在には、色んな人種がいるがこの世界では大まかには二通りいるとサナは感じている。
一つは、海の生活で食料や金がすり減り精神的に限界となって他人を襲うようになった者。
もう一つは、まさに目の前にいる男の様な存在。

「このッ…愉快犯め!」
有事の際にすぐ対応出来るよう隠していた鋭いナイフを、力を入れてサナは男目掛けて投げる。
ナイフは真っ直ぐその顔に向かうが、短刀で弾かれた。
しかし、諦める事無くすぐに第二、第三のナイフを投げるも結果は同じく弾かれ、そのまま距離をあっという間に詰められてしまう。
(まずい!)
相手はそのままサナの懐に入り短刀で腹を刺そうとするが、ガギリッ!と何か金属音が響き短刀が宙を舞った。
「ほぉ~子どもには何も着けず、自分だけ服の下に防具装備しているなんてなぁ…情けねぇ奴。」
また血が流れる事を期待していたのに思わない結果に不服そうにする男に「黙れ。」と明らかな怒気を籠った声でサナは告げる。
男が移動した事で倒れている子どもの近くに行き、子どもの呼吸、傷の様子を窺う。
(致命傷では無い…けれど、子どもは少しの流血でも生死に関わる…早く止血しないと。)
いつもなら近付くだけでも逃げてゆく子どもがぐったりとサナに身を任せている辺り、緊急性がある事は明らかだった。
「俺が求めているのは金でも食いモンでもねぇ…欲しいのは、テメェらとその仲間の無様な死体だ。」
危険、あまりにも危険人物。
白旗を上げても攻撃を止めず、何を差し出しても命を出せと言う様な話が出来ない相手に巡り会ってしまった。

それでも。

「ここで、死ぬ訳にはいかないのですよ…!」
散々な人生を歩んできたと思う、他人と比較しても自分は運に見放されたと言われてもおかしくないと思う程。
貴族から転落し、他人に縋る様な生き方しか出来なくなった果てに捕まってそのまま檻の中で過ごすしかないと考えていた。

だからこそ。
こうして自由に夢を追えるこの今、そして未来を守らなければならない。

子どもを抱きかかえてサナはナイフを男に向け、腕の中の子どもは、目を薄く開きその姿を見つめている。
「フッ…今度はその綺麗な面にぶっ刺してやるよ。」
びりびりとその場に殺気が満たされる中、子どもの血がポタリと床に落ちていった。
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