第13章

廊下から食堂へグイグイと引っ張られて移動させられる。
とりあえず、牛乳は大丈夫だと言うことを伝えてされるがまま席に座らされた。
(そういえば、あの会話他の2人にも聞こえていただろうか…。)
滅多に出さない大声は例え波音が響く深夜の船内でも聞こえたかもしれない。
そう思うといたたまれなくて、机に伏して時間が過ぎ去るのを待った。
(何をしているんだろう。)
話の内容から考えるに、賊から奪った食料の内である牛乳を飲まそうとしているのだろうが、何となく遅い。
そうこうしているうちにふわりといい香りがしてきた。
「お前、猫舌だったよな?」
目の前に来て、持っていたマグカップが置かれる。
どうやらホットミルクを作っていたようだ。
ふわふわと漂う蒸気と一緒に香りも鼻に届き、夕飯を食べたというのに食欲が刺激される。
「…どうも。」
先程あんなに怒り狂っていたのにすっかりペースを乱されてしまった。
何とも言えない気分だが、一口口に含んでみると、自分の事を考えた温度や甘くコクのある味が口腔内を満たし、嚥下するとじわじわと温もりが体を巡った。
(…もっと、飲みたい。)
無意識に二口目を望んで口に入れてしまう。
すると、すぐに飲み干してしまった。
「あ…。」
「おかわり、するか?」
すぐに飲み干してしまい、何だか子供みたいで恥ずかしくなったがその誘いにコクリとうなずいてしまう。
ノイは何も言わず、二杯目を作る。
その様子をついじっくり見てしまった。
ミルクパンに火をかけて、牛乳を入れる。
たったそれだけの作業かと思いきや、火加減を適度に変えたり、蜂蜜を加える時間を気にしたり意外と忙しない。

(…何で、そこまで。)
さっきまであんな事があったのに、自分を気遣うような真似ができるのだろう。

そして二杯目が運ばれた。
今度はゆっくり飲み始めるとポツリとノイが話し始めた。
「…その、さっきは悪かった。」
すぐに返事をしようとしたが、手で制される。
「別に許してくれって訳じゃない、あんたにはしてもらっている事の方が多いし。」
あと、とここで初めて感情が読み取れる表情をした。申し訳なさそうに目を伏せる。
「ああいうふうに言ってくれないと、どんな事が言っていいのか悪いのか、まだ分からねぇんだ、だから今度また言ったらちゃんと言って欲しい。」
たどたどしくも、ゆっくり言葉を紡ぐ姿を見て、驚いてしまった。
(こんなに話せる人、だったっけ…?)
これまでサナが見てきたノイは、無口で料理や筋トレに精を出して取り組んでいる姿で話す言葉も一言二言のみだった。
降って湧いた疑問に何となくサナはそれを口にしてみる。
「あの、貴方そんなに話す人でしたっけ…?」
今更敬語に直しても意味は無いと思ったが、元通りの口調に戻った事でノイは安心したようだった。
「…ちゃんとした言葉で喋れねぇんだ。」
「へ…?」
「生まれも育ちも悪くてな、いわゆるスラム街で育って当たり前のように不良になったから…料理するようになって、多少はマシになったが、接客業みたいな所もあるから口が原因でクビになった事が何度かあった。」
「………。」
「成り行きとはいえこの船が職場になったんだ、手放したくなくてな。」
またおかわりするかと聞かれもういいと言うと、ノイは後片付けに取り掛かる。
(…無神経はどっちだ。)
先程の疑問もそうだが、今までのノイへの先入観は自分が勝手に作り上げたものだった。
偏見が強かった事を自覚して、顔を赤らめた。
ふと洗いながらノイが話しかける。
「これさ、俺の恩人がしてくれた事なんだよ。」
「…牛乳を飲ませた事ですか?」
「ああ、俺も初めてやられた時何やってんだって思ってた。」
思っていた事を言い当てられ、また恥ずかしくなる。
「でもな、意外と効いちまうんだこれ、頭冷やす時とか、ちゃんと話し合いたい時とか。」
そこで水を止め、ノイはこちらを向いた。
「…美味かったか?」
「………はい、美味しかったです。」
するとほんの少しだけノイの口角が上がる。
「俺の悪口はいくらでも言えよ、慣れているし………その代わりその言葉をたまに言ってくれればいい。」
その表情と言葉に何も言えなくなる。
ノイは片付けが全て終わり、扉の前に行き最後にこう言い放つ。
「…俺の故郷は、不純なくらいに恋愛が盛んでな、女同士とか男同士とか普通にいたから。」
「はい?」
「ま、気にしなくてもいいと思うぞ、少なくとも俺は―――――」
ノイは顔だけこっちに向けた。

「お前綺麗な顔してるし、ガワが男でも中身はどっちでもいいと思うけどな。」

衝撃の連続で言葉も発せなくなったサナを見て、ノイは言いたいことだけ言って「今日はもう疲れたろ、先に寝て良いぞ」と送り出された。
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