第13章

自分は男ではあった、けれど女にもなってしまった。
娼館は男として機能することもあれば、必要に応じて自分が女になることもあった。
それを繰り返して、体を酷使している内に。

自分が何者だか、分からなくなった。

相手が求めるまま、それに応える。
それが自分だった。
少しでも関心を引きたくて、求められたくて、救われたくて。
男娼として長らく生きてきて、ようやく別の役割を得てここにいるのに。
同性だろうが裸を見せられてそれを連想してしまう自分のはしたなさが浮き彫りで、性の境界線すら分からないのに。
それに答えろと?

駄目だ。

「お」

駄目だ、駄目だ。

「お前に」

これ以上は、もう。

「お前に分かるわけないだろう!!!」

声が今までにないくらいの大きさで口から放たれる。
しかしそんな事は頭から吹き飛んでいた。
「そんなの自分が1番知りたい、何で無神経に人の言われたくない嫌な所を当てるんだいい加減にしろ!!」
胸ぐらを掴み疲れていた表情を一変させて凄むと、急激に感情が昂ったせいか涙が溢れてきた。
「男同士だからって、何なんだ…!」
ずっと心の中に巣食っていた闇が一気に吐き出される。
たった一つの過ちで汚れ、堕ちて、更には価値観まで破壊されて。
それでも、救いを求めて滑稽な程生き恥を晒してきたのに。

まだ、こんな。

「…お前には分からないだろうな。」
また同じことを呟く。
「自分が男なのか女なのかも分からずに、生きていく奴の気持ちなんか…。」
ああ、言ってしまった。

如何にも自分が正論を吐いているような口振りをして、こんな異常な事を吐露するなんて。

分からない、何故このタイミングで言ってしまったのか。
分からない、何故我慢出来まなかったのか。
分からない、何故…よりにもよってこの男に言ってしまったのか。

向こうは何も言わず、ただじっと自分を見ている。
ひょっとしたら、軽蔑をして早く離せと目で訴えているかもしれない。
ひとまず荒れた呼吸を整えて、早く眠りたいと思い勢いよく手を離す。

途端、その腕ごと掴まれた。

「………!」
その射るような視線に動きを止められ、掴まれた腕からは酷く痛覚にも似た圧迫感が迫る。
殴られるのだろうか。
あの絡まれて迫ってきたろくでなしを追い払った時の様に。

いっそ、そうしてくれた方が楽になる気がした。

「なぁ。」
「………。」
「お前、さ。」
「……………。」

しかし、期待や予想を覆し相手はこう言ってきた。

「牛乳は嫌いじゃないか?」

話が飛び過ぎて、間抜けに「は?」と声を出す事しか出来なかった。
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