第12章

あれだけこの島の景色に心躍らせていたマツリだが、濃厚過ぎた一日を過ごし帰ってきた船を見てほっとする。
早々に自室で寝ると船長に言われて、マツリはサナに頼まれた夕飯の準備に取り掛かろうと調理場へ行くと。
「…おそいんだよ。」
ほっぺをぷくぷくにさせた少女が、椅子に座りこちらを見た。
「ガーナちゃん、先に帰っていたんだね!?」
「サナといっしょにね…そのままサナはどっかいったけど。」
確かにあの道をガーナ一人だけで歩かせるのは大変だろうとマツリは頷く。
おそらくサナはガーナを送った後、ノイを迎えに移動したのだろうと考えた後、彼女はそういえば何か忘れているような?と感じガーナを再度見る。
「……………あ゛。」
「わすれていたでしょ。」
ぷいっとそっぽを向かれてしまい、マツリは口を開け閉めさせどうにか彼女の機嫌を取ろうと声を出す。
「い、いやいや!船長の都合と盗人騒動に巻き込まれただけであって、ガーナちゃんのアクセサリーを忘れた訳じゃ…!」
きゅう………と鳴ったその音源は、目の前の褐色肌の少女から。
「…ご飯作るね。」
机に伏してしまったガーナにくるりと背を向け、マツリは調理の支度を始めた。

幸いノイがある程度下ごしらえをしたものが複数あった為、分かる範囲で調理を実行し無事に4人分の夕飯を作り食べ皿洗いをした後、ガーナと自分の寝室へ行き約束の物を取り出す。
「遅くなってごめんなさい…。」
素直に謝罪の言葉を述べ、マツリは恭しくガーナにそれを見せた。
「…これ、髪留め?」
お腹が満たされたからか、機嫌は少しだけ良くなったように見えるガーナが疑問を口にする。
それは、明るいオレンジ色の木のビーズに白で模様が描かれた2つの髪留めだった。
「うん…ガーナちゃん、いつも決まった物を付けてるでしょ?」
だから他にもあったら楽しいかな~って、と相談も無しに決めたので本当に喜んでくれるのか不安になりながらもマツリは手を伸ばす。
「受け取ってくれると…嬉しいな。」
その顔を見る事が出来なくて、その視線を床に落としてしまう。
緊張で冷える手に、別のぬくもりが宿る事を待っていると、しゅるりと音がする。
「ガーナちゃん?」
「まってて。」
それまで縛っていたその髪を解き、マツリの持っている髪留めを受け取り、すぐさまその髪に飾り付けた。
「…どう?」
小さくこちらに感想を聞く声に、マツリは思わず大きな声で答えてしまう。
「かわいい…かわいいよ!」
元から彼女に似合う様に作ったつもりではあるが、実際に付けている様子を見ることが出来て興奮してしまい、その目を輝かせる。
「…ありがと。」
その顔がうっすら赤に染まったのを自覚したのか、すぐに彼女は次の話題へ切り替えた。
「ガーナからは、これ。」
手を出してと乞われ、すぐに手を出すと思ったより軽い感触がしてすぐにマツリは贈られた物を見る。
「これって…?」
それは数種類の紐で編み込まれた腕輪だった。
確かに彼女の言葉通り、配色こそ色とりどりではあるが、細い輪の形は付けていても気が散るような物ではないだろう。
(素敵…どこに付けよう。)
あれだけガーナが頑張って作った代物だ、出来れば綺麗なまま付けておきたいと考え、絵具で汚れてしまう手首はまず付けず、マツリは足首に付ける事にした。
「とっても嬉しい…ありがとう、ガーナちゃん。」
彼女からの言葉を受け、少女のその顔にやっと笑みが浮かぶ。

それから三日、無事に仕事を終えたサナとノイが船に戻ってから、海賊達はリリア島を離れまた新しい未開の地を目指し一歩踏み出した。
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