第12章

ぎゃーぎゃーと低い叫び声が遠のいていくのを聞きながら、何が何だか分からない様子のマツリに船長が説明をしてくれた。
「…マツリ、さっき警官達を見たろ?」
「え、はい。」
それがどうしたのだろうという様子のマツリに続けて船長は話す。
「警官達もそうだが…この島で、筋肉質な奴を見た事があったか?」
そう言われてみれば、とマツリはこれまでの記憶を思い出してみる。
島の住人すべてではないが、リリア島に住んでいる人々は、体力が居る警官でさえも細身な人物が多いように思え、誰一人豊満な体型を持っていないように感じた。
「いない…いなかったです。」
「だろうな。」
船長はマツリが持ってきてくれた本を再度手に取り、巨人伝説が記されたページを開く。
「『その昔、小さな島にそれは現れた。あまりの圧倒的な存在に、人々は支配されるしか出来なかった。ある者は逃げ、ある者は抗い、ある者は戦った。だがそれらすべては、それに潰される事となる。生き残ったのは、怯え逃げも抵抗も何も出来ない人々。』…どうだ、分かるか?」
船長に本を見せてもらいその内容を反復すると、マツリはまさかと思うもその自分が思った答えを口にしてしまう。
「生き残った何も出来ない人々の中に…筋力が強い人がいなかった?」
ふむ、と船長は頷く。
「ま、正解だな…正確には力がなまじある者達が消された、かな。」
そのあまりに心無い内容に、マツリは血の気が引いていくように感じる。
「まぁ~とりあえず…だから、この島では筋肉を鍛えても体をデカく出来る人間が少ないんだよ。」
そうなのか…と納得するが、マツリはそこで「ん?」と声を出す。
「えっと…それは分かったのですが、それとノイさんが連行されたのとどういった関係が…?」
「まー単純言えば、貴重なんだよ。」
簡単だと言うように彼は笑う。
「リリア島は服作りに有名な島ではあるが、自分達基準の服のサイズだけじゃ世界に通じない…だが、入島基準のこの服を着てまでこの島に入ろうとする筋肉ムキムキの奴なんてそういない…つまり?」
言葉を投げられ、マツリはやっと答えに辿り着く。
「貴重なデータを取りたいから、ノイさんをモデルに求める声が多い!」
その通りと船長が笑った後、小さく「…ま、金集めの為でもあるがな。」と付け足すが、マツリには聞こえなかったようだ。
「あれ?でも…体格で言うなら船長もお願いされてもおかしくないような?」
じっとマツリが船長に言うと、彼は肩を竦める。
「いや~俺は肌が汚ねぇから。」
え?とマツリは首を傾げると「マツリちゃんが良ければ能力使って見ても良いよ~。」と許可が下り、ではとその服の下を透かして見てみた。

飛び込んできたのは。
数え切れない程、体に刻まれた傷跡。

本能的にこれ以上はいけないとすぐに元の視界へ戻す。
「見れた?」
あまりにもあっけらかんに聞くので、それにも驚きながらマツリは静かに頷く。
「じゃ、船に戻るか。」
肌が汚いと彼は言った、しかしマツリはこう思う。
(汚いんじゃない…見せられないんだ。)
一瞬見たあの傷跡達にどんな歴史があったのか、聞くべきなのか避けるべきなのか考えを巡らせながら彼女は船へ帰る道を歩き始めた。
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