第12章

ひゅうと、風が吹く。
風が収まったそのタイミングで、船長の口が開いた。
「何を見た?」
その問いに応えるべく、マツリは話し始める。
「あの足跡…おそらく普通の人なら、ただの足形に見えると思うんです。」
より見える位置にとマツリは崖のギリギリまで移動し、彼女しか見えないその景色を見つめた。

「この足跡、力があった跡といいますか…そこいたという証が、あたしには見えます。」

ぐい、と額に巻いていたバンダナを下げ、ミツメを出しより視覚の精度を上げる。
「―ここ以外に島内で足跡が残っている場所は無いんですか?」
「無い、ここまでくっきり残っている場所はな。」
ただ、と船長は続けて話す。
「島の中でも歪に歪んでいる場所はあったらしい…が、整備されて平らにされた場所もあるとは書いてあった。」
「なるほど…人気が無い場所しかあたしもバンダナまで下げて見る事が出来なかったので、最初にここを案内して下さって良かったです。」
言葉とは違い、眉間に皺を寄せ厳しい表情を取るマツリに彼は首を傾げるが、その視線の先を追うと、なるほどと納得した様に頷いた。
「巨人が移動した跡を追っているのか。」
確かにこれだけ大きな足跡を残す存在が突然消えたのはおかしい、その視線の先にもしかしたらマツリの言うように生きている状態の巨人を見つける事が出来るのかもしれないと黙って見守るが、マツリはバンダナを元の位置に戻す。
「―それでも、限界はあります。」
気付けば滝の様な汗が彼女に纏わりついていて、船長は自分が持っていたハンカチを渡した。
「すみません、どこまで確認出来るか見てみたのですが…追えませんでした。」
ハンカチで汗を拭いながら話すマツリは息を整えながら、彼女は自分の見解を話す。
「生き物…人間も含んでいるのですが、あたしには生きている生物なら持っている生気…みたいなものが見えます、それは本体だけじゃなく、移動した跡とかに煙みたいな…場所にも残るのが見えるんです。」
ふぅと一度息を深く吸い吐いてから、話を続ける。
「それが微か…もう消え入りそうなくらいなんですが、ここにはそれがある…でも、こんなに消えてしまいそうだと、数年には消えてしまいそうだったので辿ったのです…が。」
最後の言葉が濁ったので、成果は得られなかったのだろうと「分かった。」と船長は労いの意味を込めて背中を擦った後、持っていた本の一つを手に取る。
「確信を持って調べる良い証拠になったよ、あんがとな。」
ちなみに聞いていい?と彼は聞く。
「ミツメは、どう思う?」
マツリの話はしっかり聞けた、しかし話せるはずの第三の目はずっとだんまりとしていて、意見を聞けなかったと船長はにやりと笑う。
突然話を振られ驚いたのか、おしゃべりであるはずの目玉は声を出すのに時間を置く。
「ちょっと。」
「…あーはいはい。」
仕方ないという様に、目玉は喋る。
「どうもこうも、娘と同じ視界を持ってる目だしぃ…同じ事しか言えないよー。」
「そう…じゃ、質問を変えるわ。」
まだ何かあるのかとバンダナの下で蠢くミツメに、船長は続けた。

「―――巨人は見た事がある?」

意味が含まれていそうなその言葉に「あるわけ無いだろ。」と第三の目はつっけんどんに答え、これ以上の収穫は無いと考えたのか船長は頭を切り替えた様子で「もう日も傾いてきたから船に戻ろうか。」と提案された。
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