第12章

その昔、小さな島にそれは現れた。
あまりの圧倒的な存在に、人々は支配されるしか出来なかった。
ある者は逃げ、ある者は抗い、ある者は戦った。
だがそれらすべては、それに潰される事となる。
生き残ったのは、怯え逃げも抵抗も何も出来ない人々。
その人々に、それは告げた。

「着飾れ、と…。」
本に書かれていた文字そのままを口に出し、マツリはそこで止まった。
「…合ってる合ってる、読み間違えていないよ。」
船長から本へ視線を暫く行き来していたので、彼は助け舟を出す。
「それから島民達は思い思いの格好を作り巨人の前に現れた、恰好が気に入らないと時に消される事もあったらしい…が、気に入られた島民は賞賛され、願いを伝える事を許された。―まさしく神として崇められていた訳だ。」
「…そんな存在が。」
本をめくってみると、他にも巨人がしてきた功績が書かれている。
「島民の為に島の拡大、魚の大量捕獲、服の素材作りの為に動物捕獲…こんなに。」
「どこまで真実かは分からないが…確かに昔は小さな島だったらしい。」
地面をなぞりながら船長は口を動かす。
「それがどういう訳か、この地域にないはずの土が敷かれ、しかも本来ならこの海域に生息するはずの無い生物まで揃っている…この島は不自然な程、服作りに最適な島なんだよ。」
何でだろうなと巨人の足跡を見る船長の顔はマツリからは見えない位置に立ってしまった、しかし彼女は見なくてもその表情が分かった。
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