第1章(後編)


それから翌日。

「…メアン~、メアン!」
豪邸の中で情けない声が響き渡る。
「…どこに行ってしまったというんだ。」
誰もいない屋敷の中領主・ヒュースは、ひっそりと呟いた。
朝食の後から「散歩に行く。」と言ったっきり、全く姿を見ない。
息子のサムにも聞いてみたが、こちらを見ないで「知らない。」と言われた。
(全く誰が育ててやっていると思うんだ。)
ふてぶてしい自身の息子の様子を思い出して腹を立てたが、今はそんな場合ではない。
「癪に障るが、住民どもにでも聞いてみるか…。」
そう言って、警備員達に外出すると伝え屋敷から出ようと玄関の扉を開けた。

「…クソ、やはり使えない人間ばかりだ。」
結局外に出てみたものの何一つ手掛かりになる情報を持つ者は誰一人としていなかった。
「怪盗も島民の中にいる事は分かり切っているのに、いっそのこと…」
と物騒なことを呟いている最中に警備員の声が聞こえた。
「領主様、警察の方がいらっしゃいました。」
「何…?」
振り向くと警備員の隣には二人の制服を着た警察が立っていた。
「こんにちは。」

「今日は巡回日ではなかったはずでは?」
とりあえずヒュースは警察の二人を中に招き客間へ入れた。
「ええ、ですがこの世の中何があってもおかしくないので抜き打ちで今回は訪問させて頂きました。」
「なるほど。」
言葉ではそういったものの、内心でヒュースは舌打ちをした。
(今はこんな事に時間を割いている暇はないのに。)
早く終わらせて最愛の妻を探そうと、早めに話題を終わらせようとする。
「しかし、この島は特に何も問題が無いでしょう?」
きっと何もないと言うはずだと思い、こんな言葉を投げたが相手の反応は予想外なものが来た。
「いいえ、盗難被害が続出していると聞いておるのですが。」


「島民たちも物を盗まれている…?」

聞き覚えが無いというようにヒュースは聞き返した。
「ご存じない?」
「届け出なんぞ無かった。」
「そうですか…。」
警察はごそごそと何やら紙を取り出した。
「それは?」
「この島の地図です、あらかたこの島をまわらせていただいてチェックをしているのですよ。」
そしてここが最後です、とぎこちない笑みを警察は浮かべたが、ヒュースは顔を強張らせた。
「私を、疑っているのか…?」
「すみません、疑うのが私たちの仕事ですので。」
しかし、とそこで警察は言葉を続けた。
「領主様と言える人が、盗みなんてするはずもないでしょう。」
「…だったら」
「だからこそ、隠しもしないで見せて頂けると思ったのですが…。」
その言葉に領主は反論しようとした言葉を引っ込めた。
「…ふん、私も被害者の一人だ、いくらでも見るがいい。」
そしてさっさと立ち去れと心の内に吐いた。
「…それでは、屋敷の中をご案内してくれますか?」
また特徴のある笑みを浮かべて問われ、ヒュースは渋々その場から立ち上がった。
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