第12章

寸の間、沈黙がその場に訪れる。
「―先生。」
それを止めたのは、質問を投げられたサナだった。
「本当にわたしを口説くなら、そんな言葉を使って貴方は問い掛けないでしょう?」
涼やかな顔でお茶を一口飲む彼に、シィーは肩をすくめる。
「あら残念…半分冗談で半分本気だったのに。」
「貴方に誘われるのは光栄だと思いますよ。」
よく言うわと穏やかに笑っているこの人物は、実はリリア島だけではなく、世界的にも有名な人物。
先程マツリがどこかで見た人物画を思い出すとシィーを見て感じたが、それは当たっていてシィーはそういった仕事を引き受けていた。
「世界的ファッションモデル・シィー…引退してもその名前と容姿は忘れ去られる事は無く、寧ろその後ろ姿を追う者が後を絶たない圧倒的なカリスマ性を持った人物、そのモデル指南を受けたい人は山ほどいるでしょうね。」
サナにこれでもかという誉め言葉を贈られるも、シィーは少し頬を膨らませる。
「そこまで分かっているのなら、どうして私の誘いを受けないのかしらね。」
その立派な姿も口調も私のお陰だと思うのだけど、とぼやかれ相手は苦笑した。

サナの言葉にもあったようにシィーは、昔その美貌で世界を股にかけるファッションモデルとして活躍していた。
だが、長年世界を旅する事や、時に貴族や政治家、スポンサーとのやり取りは一人では抱えきれない程の重責が付いてまわる仕事に、更に体の老いが重なって限界を感じ引退を決意、そして最期に過ごしたい島として選んだのが、最期まで美に触れることが出来るであろう島…リリア島。
余生のんびりと自分らしく過ごしこれまで培ってきた知識を、教えを乞いたいと願う人々に与えられるだけ与えてきたシィーが初めてサナと出会ったのは、数年前の街中だった。
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