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第11章

その小さなふくらみの周りには黒いシミが複数あり、マツリは胸が締め付けられるような気持ちになった。
起こそうかどうか迷うも、サナより自分なら部屋に入っても良いと言われたのを思い出し、思い切って声を掛ける。
「ガーナ、ちゃん…。」
緊張しているのが丸分かりな声、震えたその音でも彼女には届いたようだった。
「………マツリ?」
むくりと起き上がった彼女は、あくびをした後目をこする。
その手の先、全ての爪には黒がこびり付いていて、それはマツリが塗り付けたクレヨンを厭う事無く夜通し満足が出来るまであの作品を作り上げた彼女が成し遂げた努力の痕跡だった。
「ごめんね。」
目をこすったせいで目の周りにも黒がうっすらとついてしまったガーナに、マツリは自然と言葉が溢れてくる。
「ごめんね、昨日…あたしが…あたしが勝手に、約束破って…。」
自分が悪い事くらい分かってはいた。
けれど、負の感情を抑えられず溢れ出た理不尽な言葉を散々彼女に浴びせてしまった、その後悔の念がやっと言葉になる。
「どうしても自分が思う様な出来にならなくて…何度も、何度も色を重ねる度っ上手く描けない自分が嫌になって…何もっ無かった事にしたくて…!」
こんな事を伝えても言い訳にしかならない、そうと分かっていても口を閉じる事が出来ない。
言葉と共に溢れ始めた涙が、誰かの手によって止められる。
「マツリ。」
ふわりと頬に添えられたハンカチが床に落ちてゆくはずの涙を救う。
「マツリ…あの絵、どうだった?」
唐突に問われ、マツリはしゃっくりをあげながらもそれに答えようとする。
「…良いと思う、あたしが描いた絵よりも。」
「ほめて欲しいわけじゃないよ。」
いつもはくっきりと見え過ぎる程に見える視界が涙でぼやけて良く見えない。
それでも、ベッドの上で自分に声を掛けてくれる彼女の表情を見ようとマツリは必死になっていた。
ガーナはマツリの手を引き、絵の前まで一緒に移動する。
「これ…ガーナだけじゃ、せったい完成しなかったよ。」
すり、と自分が引いた線をなぞり、彼女はマツリに語りかける。
「マツリがいっしょうけんめい考えて、考えて描いたあとをガーナがみつけただけ…どっちかだけだったら、ぜったいに出来なかった絵だよ。」
だからね!と彼女は歯を見せて笑った。
「ステキでしょ、ガーナ達ふたりがつくった絵なんだから!」
涙を止めようと必死になっていたのに、それは出ていく一方でマツリはせめて真っ赤になった顔を両の手で隠してしまうそんな彼女をガーナは黙って見つめている。
二人の手は、涙が止まるまで繋がっていた。
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