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第11章

「…この線、ダメだな。」
薄暗い部屋の中、マツリは一人で絵と向き合う。
好きな事をしているというのに、彼女の顔は変化が起こったその日から徐々に暗雲が広がるように悪くなっていった。
出来る事を制限して貰い気を回してもらっているというのに、変わらない自分の体が忌々しいと考え始めるくらいにマツリは苛立っている。
なるべくこの感情が海賊の皆に伝播しないよう、なるべく部屋に籠り絵と向き合う時間に割いているのだが。
「良くないな、これも…。」
消しカスが増えてゆく自分の足元を見て、上手くいかない現状を揶揄されているようで、眉間に皺を寄せてしまう。
間違いは正解に辿り着く為の努力の証、そうサナに教えては貰ったものの高待遇を受け皆に甘えている現状がマツリを返って追い詰めていた。
「―何で、上手くいかないんだろう。」
ふと、天井に顔を向けてみる。
そこはただの木の板を合わせてあるだけで、それだけの光景―しかし、彼女にはそれ以上の光景が見えていた。
(相変わらず勝手に透けて見えるな…船長さんが見張りの番中なのに、寝てる…。)
マツリの目は、意識的に見つめていなくても勝手に透視をしてしまう事がある。
見え過ぎるこの力は、今でこそ慣れたものだが、時折見たくない物が目に入ったり、頭が追い付かず頭痛を起こす事もあって、昔から彼女にとっての悩みの種だった。
(瞼を閉じても見えるから、寝たいのに寝れないってじっちゃんに助けを求めたっけ。)
誰も救えない状況の彼女に、育ての親であるムマジは黙って一緒に寝る事をしてくれ、どうにかそれで不安な夜を過ごしていったが、今ここに彼はいない。
一つ、マツリは呼吸を深くする。
そして。

近くに置いてあった画材を払い、使わないと仕舞い込んでいたクレヨンを取り出した。

「消すのか。」
頭上から声がする、否が応でも誰が声を掛けたのか分かる。
「気に入らない。」
「嬢ちゃんとの約束は?」
ミツメの声に一度動きを止めかけるも、手に力が入った。
「あたしが嫌いな物を見せても、喜ばないでしょ。」
酷く無機質な声がした後、ガッ!と絵に線が走る。
線は絵を縦横無尽に走り、その内沼の様な丸となり絵を汚していく。
「こんな…綺麗じゃないもの、見せたくない。」

だから、せめて見えないように。
見たくないものが隠せる、透かし通せない自分が焦がれて止まない色を一面に塗りたくる。

出来上がった真っ黒な絵が、マツリを見ていた。
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