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第10章

ざぁ…と海の波音が大きく聞こえる。
海賊船は島を離れ、また冒険の道へと進もうとしていた。
遠くなる島を複雑な面持ちで見ている人物が一人いる。
「サナさん、メソドさんが呼んでいましたよ。」
頼まれた化粧水を作ったから早く来いと伝言を頼まれたマツリは、甲板にいるサナの元までやってきた。
その表情が曇っているので、少し心配そうに話し掛ける。
「…その、大丈夫ですか?」
「ん~大丈夫だけど、残念な結果に終わったな~考えちゃって。」
その答えにマツリは「あ~。」と頷く。
あの夜、船長に合図を送られてマツリは、仲間達を透明にしてその場から逃げる手伝いをし、船に戻った際あのままでは、本当の海賊は自分達だと祀り上げられてしまう、それは勘弁だと船長は苦々しい表情をしていた。
「俺達は理想郷を見つけるのが目的…名を上げてどうこうするのは違うからな。」
しかし、その選択は別の弊害を生み出す。
「わたし達が放火魔を捕まえたのに、向こうの手柄になっちゃって…しかも参加費も貰う予定だったのに、船長がすぐ島を出るって言うからぁ…。」
結果タダ働きになってしまったので、サナはふてくされているのだ。
「しかたねーだろぉ、あのままあそこにいたら面倒臭い事この上ない事になってたぞ。」
後ろからのっそりやってきた相変わらず目の下にクマを貼り付けた船長を、サナはジトリと睨む。
「それでも労力には対価が要ると思うの…そうね、この一か月はわたし、ノイちゃん、マツリちゃんに対して特別報酬を出すわ、貴方のお小遣いから。」
「いやん。」
体をくねらせて拒否するその様に苛立ったのか、袖口にある仕込みナイフが見えた気がしてマツリは強引に会話に割り込む。
「そういえば!この海賊団の名前ってセームド海賊団っていう名前だったんですね!いやぁ知らなかったなぁ!!」
「無いよ、名前なんて。」
すぐに帰ってきた返事に彼女は間の抜けた返事を返してしまう。
「はえ?」
「…そうね、ここの海賊団に名前なんて無いわ。」
一度怒気を引っ込めて、サナはそれについて説明をした。
「海賊にも色んな種類がいるわ…強奪、誘拐、密売、宝荒らし―得意な犯罪によってその方針も様々。」
「ちなみにウチは言わずもがな宝荒らしな。」
船長の言葉に頷き、説明の続きを美形は話す。
「名前が固定化すると、警官にも目を付けられやすくなるし、今回みたいに偽物も出てくる事もある…有名になってしまえば時に隠れる事が出来ない、だから名前は無いの。」
「じゃあ、名乗っていたセームド海賊団というのは…。」
「咄嗟に出た偽名。」
なるほど…と船長から出た回答にマツリは頷くと、あれ?ととある事に気付く。
「船長、偽名言った事覚えているんですか?」
彼等に相対した時は「覚えていない。」と発言していたのに、と思い返すとああと彼は指を鳴らす。
「偽名を使った事は、な…だが、アイツらを助けたっていうのは、記憶違いというか…。」
どういう事だろう、とマツリは首を傾げるとサナが代わりに答えてくれた。
「あの時…わたし達は、お金目当てでたまたま指名手配されている強盗団を捕まえただけ、だから人助けの為にした訳じゃ無い…船長が言いたいのは、そういう事よね?」
「そうそう、さっすがサナさん~さっきの特別報酬発言撤回して♡」
「いや♡」
にこにこしている両者だが、その笑みは確実に黒い。
「えっと…じゃあ、話は戻るのですが、今は何も名前がついていないんですね。」
気にした事は無かったが、意外な事実にマツリは驚いていた。
「そうだな~…でも、使い捨てとはいえ名前上げちゃったし…そうだ。」
良い事思いついたというように、船長は彼女に聞く。
「マツリちゃん、名前付けてみない?」
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