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第10章

突飛なその意見に瞬時に返事をする者はいなかった。
ただ、別の所から声が上がる。

「放火魔が捕まったそうだぞー!」

バタバタと複数の足音がこちらに向かっているのが分かり、呆けていたセームド海賊団の面々は我に返った。
「な、何で…?」
そこでマツリは船長の近くに控えていたメソドがいない事に気付く。
(いつの間に…という事は、メソドさんが周りに知らせて…?)
そこで、ちょいちょいと船長からマツリへ手の動きで合図を送られた。
「あ…これは、いい機会です!貴方達の事を過去の事も含めて、ちゃんと他の島民の人達に知って貰え―」
これまで勘違いやアクシデントが重なって今があるが、偽ってきた事実は消えない。
ならば、ここで自分達の罪を告白し、真の英雄である彼等を紹介したいと願うリート。

しかし、その目の前には誰もいなかった。
まるで、元より誰もいなかったかの様に。

船長だけでは無い、近くにいたノイやサナ、そしてマツリの姿も消え、彼らの目の前には地面に雁字搦めに拘束された放火魔が横たわっているだけになっていた。
「そんな…っ」
あまりの出来事に声も出ない、そんな状態なのに後ろからわっと民衆が到着する。
掛けられる賛美の言葉、いつもなら作り上げた仮面を被り演じて対応するのに、間の抜けた返事しか出せない彼を、余程大変な事があったのだと民衆達は気遣い、それ以上の声掛けはしなかった。

ただ、セームド海賊団達は、船長から掛けられた言葉をじっくり理解しようとしていた。
警官に放火魔を渡し、見送りながら小さな声が零れる。
「俺達…今後どうすればいいですか、リーダー。」
答えが見つからず、メンバーの一人が縋るように問う。
その言葉に対し、いまだに揺れる瞳ではあったが、彼は渡された言葉をこう解釈する。
「…本物になれと言われたんだ、ならやってみよう。」
せっかく大事な名前を貰ったのだ、彼等の功績を曇らせる様な行動はしたくない、そう話す彼に面々は力強く頷いた。
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