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第10章

「―あの時、ありがたい事に妻子無事に出産を終える事が出来て、ほとぼりが済んでからお礼に行こうとしたら、もう貴方達はこの島を出発してしまった後のようで…。」
信じられない訳ではないが、話している彼の後ろにいる仲間たちにも海賊達は視線を送ると、総じて合っていると頷く。
「で…そこから何で同じ海賊名を名乗って、姿まで似せちゃって活動するようになったの?」
別に良い事をするのならそのままの自分達でも良いのでは?と船長が聞くも「その…。」と言い難そうに彼は再度話す。
「始めは、少しでも恩人である貴方達の情報を知りたくて聞き込みを始めたんです…で、その内話だけじゃ分かりにくいからとこの様な恰好をしてサーベルの使い方も学んで、友人達にも協力を得て似たような格好に変えて貰って…そうしたら。」
思い出して心が苦しくなったのか、そこでリートはぎゅうと目を瞑った。
「聞き込みをしている途中、偶然ですがスリを捕まえたんです。」
「…良い事をしたね?」
それのどこが言い難い事なのだろうかと思いながら返すと、男は首を振る。
「いいえ…そこで私は調子に乗ってしまったのです、自分達にも貴方達がしてくれたように人助けが出来ると。」
恥ずかしいというように顔を赤らめながら、彼は経緯を話す。
スリを捕まえた彼等は、周りに賞賛され一気にただの一般市民から有名人へと駆け上がる事となる。
聞き込みで幾度となく使ってしまったセームド海賊団という名前が、勘違いからかいつしか自分達につくようになってしまう程に。
元より海賊達に近付く為にある程度力を付けた彼等には、自信も同様に上がっていた。
そこに、周りからやれ勇者だ、やれ英雄だ、と褒め称えられる事によって、更にそれが増幅してしまった結果。
「―元の目的を忘れ、ただ周りの声に応える偽物の英雄が出来上がりました。」
伝える事はすべて伝えきったとばかりに、彼は力無い笑みを浮かべていた。
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