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第10章

「通してっ…通して下さい!」
様々な視線を感じながらも、逃がすまいと少女は逃げ続けている犯人を追い掛ける。
しかし、初めて島を訪れた一人の旅人に過ぎない彼女と恐らくこの地で犯行を続けてきた彼の差は広がるばかりで、どんどん離されてゆく。
「誰か…誰か止めて下さい!そこの帽子を深く被った小太りの男です!」
自分では追いつけないと理解し声を上げてみるものの、帽子を被った男性は複数いてただただ周りを困惑させるだけでマツリの願いを聞いてくれる者はいない。
万事休す、諦めてこのままガーナと合流しようかと考え始めたその時。

「疲れたでしょ、ちょっと止まって。」

後ろから肩を触れられ、声の主がいる方へ振り向く。
すると、どこかで男の怒鳴り声が響いた。
「何しやがる!」
「いや、ま~たお前かと思ってな。」
小太りの男の腕を捻る人物がぼやいていると、警官がそちらの方まで近付いてくる。
「本日もお疲れ様です。」
「いえいえそちらこそ。」
警官を見てすぐに逃げようとするも、男はすぐに組み伏せられた。
「ほら、持っているんだろう?」
何の事だか分からないというように、地面へ視線を落とす彼をその場までやっと追いついたマツリはその目で自分の財布の行方を探る。
「…その、上着の内ポケットの中です!」
言い当てられた犯人は必死に体を捻じり抵抗をするも、警官と手伝ってくれた人物たちのお陰で首に掛ける為の紐が切られた財布が現れた。
「ご協力ありがとうございます。」
警官は早々に恨みがましい目をした犯人を拘束し連れて行く、マツリは手伝ってくれた彼らに頭を下げる。
「お二人ともありがとうございます…お陰で財布を盗まれずにすみました。」
いやいやと、少女からの言葉に彼等は首を振った。
「君が助けを求めてくれたからね、じゃないと分からないままだったし。」
「せっかくこの島まで来てくれたのだから、楽しい思い出作ってもらいたいしね。」
言っていることはとても親切なもので、見ず知らずの自分にも優しい人達だと思う。

しかし、マツリは彼等に対しどうしても気になる事が一つあった。

「そ、の…差し支えなければお名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
彼女の目線の先にいる彼等は、その質問に対して一瞬虚を突かれた様な表情になるもすぐに元の笑顔に戻る。
長いコートを着ている片目を長い前髪で隠した男性と、手まで隠れたアームカバーを付け猫背の男性は自己紹介をした。
「俺はリート、こっちはメルノ…俺たちはこの島の自警団“セームド海賊団”っていうんだ。」
また何か困った事があったらいつでも頼ってね!と去ってゆくどこか見た事がある様な彼らをマツリは呆気に取られた表情で見る事しか出来なかった。
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