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第9章

一つの風が二人の間を吹き抜ける。
マツリは、声がそれに攫われないようにはっきりとした声でメソドに伝えた。
「もしその命にあたしが殺される事になったらそれまで…その覚悟は持って、この船に乗っているつもりです。」
「後悔するぞ。」
間髪入れずに返ってきた言葉、それでも彼女は正面から向き合う。
「構いません、あたしの実力不足ですから。」
それに、とそのままその口は動く。
「止めないでしょう、メソドさんは。」
僅かに微笑みながら話すマツリに彼は怪訝な表情を見せ「は?」と声を零す。
「止めるつもりならそれこそこの池にも投げ捨てられて、あたしはとっくに底に沈められているでしょうから。」
最後までお話を聞いて下さりありがとうございます、と頭を下げた少女にメソドはその表情を変えないまま背を向けた。

「命を粗末にするな。」

作業を再開し最初出た言葉はそれで、マツリは黙ってその後ろ姿を見る。
「相容れない考えだとは思う、だが他人を犠牲にしても生きろ…君が海賊としてここにいるには必要な事だ。」
きっとこれ以上はお互いの思いを押し合うだけになってしまうだろう、マツリは肩を落としながら「そう、ですか…。」と小さく答えた。
後ろで待っていて欲しいと言われ、言葉のままにマツリは離れた場所で座り彼の様子を伺う。
対話は出来たものの、結局平行線のまま交わる事も無く結局お互いの思いを告げただけで終わり、予想はしていたが芳しくない結果に彼女は落ち込んでいた。
(あたしには…出来ない、な。)
それでも今回話した事で分かったこともある、それはメソドの考えはあくまで押し付けでは無く助言に近いものだったと頭でマツリは整理する。
(メソドさんはあたしに船を降りるように言ったり、敵は殺した方が良いと言ったりするけど…それはすべて間違いなんかじゃなくて、あくまで選択肢の一つだって言ってくれる所がある気がする。)
言葉こそ厳しい、がある一つの可能性をマツリは思う。

もしかしたら、彼は。
自分に危険な目に遭って欲しくないのでは、と。

正解かどうかは分からない、遠くから作業が終わったと呼ぶ声に思考は切られ、マツリはそのままメソドと共に船に帰る事となった。
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