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第9章

それから、腕の動きの確認、槍を両手で持ち上げ下げの動作、木製の的を出し突きの練習…思いつく事は全てやったとそのままストレッチをして終わろうと考えた瞬間、ずっと黙っていたメソドがその口を開く。
「…来た時よりは、だいぶ体は鍛えたみたいだな。」
動きを止めて聞こうと振り向こうとすると「いい、体が冷える。」とストレッチを促された。
「俺が見たいと思ったのは、別に動きの確認とかそんなんじゃ無い。」
ただ淡々と彼の言葉が、鍛錬室の中で響いている。

「君の…戦いの姿勢を見たかったんだ。」

「姿勢?」
体の構え方の方かと勘違いしている様子だと分かったのか「心の持ち方って事。」と付け足された。
「さっき人型の的に向かって突いていたけど…心臓部分に矛を向けなかったのは?」
「え…それは、そこを突いてしまったら…。」
殺してしまう、と言おうとした所でマツリは場の空気が酷く冷えている事を感じる。
気候が変わっただけでは無い、マツリの体が冷えただけでは無い。
メソドの様子が先程と違ってきている。
言おうと思っていた言葉を出していたらどうなっていたか、マツリは言葉と共に唾を喉へ送った。
目付きが鋭いまま、彼はマツリへ問う。
「君の今の戦い方は…否定しない、姿を隠して敵に近付き急所を狙う事は君にしか出来ない事だといえる。」
けれど、と言葉が続く。
「戦う事は命を奪う事もある…これまで戦ってきた人間は、君や俺達に対して殺意が無かったと言い切れるか?」
思い出してみる、確かに姿が見えない状態の自分にはその矛先が向けられなかったが、他の海賊達は何度その凶刃が降りかかったのだろう、と。
「………。」
無言が答えだった。
「俺は、向いていないと思う。」
ぽつりと呟くその声は、これまで機械的だった声音が少し変容している様に思えた。

「殺す覚悟の無い君が、武器を取る資格は無い。」
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