第1章(後編)


「ちょっ・・・!」
「・・・!」

突然の出来事にノイもサナも一瞬注意が目の前の怪盗から逸れた。
その隙を見てそこから人の気配が消えた。
「しまっ・・・。」

「目で感じないで、耳を澄ませた方が良さそうだぞ~。」

緊張感のない声が、先ほど破壊された入り口から聞こえた。
「・・・ッ。」
二つの足音が聞こえたかと思うと、霧がいきなり晴れた。
晴れた視界から見えたのは、サーベルを構え怪盗を追い詰めている船長の姿だった。
「お、霧が晴れたな・・・これもアンタの仕業か?」
「そ、そんな訳ないだろッ!」
声を出して怪盗はすぐに自分の冒した失態に気付き口を押えたが、間に合わなかった。
「それが素か、なかなか可愛い声だな。」
怪盗の口から出た声は、低い男の声なんかではなく、明らかな女の高い声だった。
「・・・クソッ!」
すぐに後ろに下がろうとするが、サナとノイも駆けつけ一気に囲まれてしまった。
それでも怪盗は素早くその小柄な体の体勢を屈め脱出しようとしたが、ノイに取り押さえられる。
「おい。」
「縄ですね。」
サナは懐に忍ばせてあった縄を取り出し、怪盗の足にきつく縛り付ける。
「ちょっとキツイと思うけど、我慢してください。」
「手もやれよ。」
「容赦ないですね。」
仏頂面を向けるノイに苦笑しながらも、サナは手にも縄を縛り付けた。
怪盗はしばらく抵抗していたが、目の前に船長が歩み寄ってきてその動きを止めた。

「こんな夜に女の子が一人で一方的に人の家に来ちゃいけないぞ、学校で習わなかったのか?」

そう言うと、おもむろに目の模様が描かれている目隠しを取った。

「・・・こいつ。」
「この子は・・・。」

そこには、縄で体を拘束されても精一杯目の前の船長を睨みつける―――――――――

「・・・チッ。」

マツリの姿があった。
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