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第5章

門番が倒れていた事を確認し、当主は屋敷にいる使用人達に、サナを捜索するように言い渡す。
最低限の人数だけ屋敷に残し、自分も外に出て彼を探しに出た。

ここまで来ても、彼にはサナが自分の元から逃げるのが分からなかった。

散々酷い目に遭って来たのだから、自分の元に足を舐めてでも戻って来ると、信じて疑わず、昔の様に自分に媚び諂うだろう。
彼の中で、サナは昔のまま、自分の足にまとわりつく子どもと同じであると。

そう信じて疑わなかった。

(最初に誘拐された時は、向こうが上手過ぎて捕まらず…二度目はまさか自分から家を出るとは思わず…今度こそ、自ずと戻って来てくれたと…。)

老いてゆく中で、周りに老害だ終わりだと揶揄されながら、地位を保ち続けたのは、帰ってくる場所を守りたかった。
どのような経験をしたとしても、どのような姿だったとしても、この家だけは、守りたいと。
もう路頭に迷う事なく、迎え入れる場所を彼に贈る為だったのに。

ロワイ島の商店街方面まで来て、彼等の姿を見つける事が出来た。
「見つけたぞ…!」
すぐに自分と共に来た使用人達に指示を出し、捕獲する。
しかし。
「痛いなぁ…何すんだぁ!?」
「…!?」
捕まえたはずの彼の声が先程とはまるっきり違う濁声だった。
「酒飲んじゃいるが、押さえつけられる覚えはねーぞー!」
「えっ、あ…!?」
見た目はまるっきりサナのはずなのに、その言動は似ても似つかない。
訳も分からない間に逃げられるが、それよりも先に声が上がった。
「ご、ご主人様!」
何事だ、と思い呼ばれた先の使用人を見ると。

向こうにも赤髪の美形、その向こうにも美形。
反対側の道には、二人組の歩いている人物達も美形。
美形、美形…と。

この通りにいる人物が、当主達以外すべてサナになっていた。

「な、何がどうなって…!」
例え美形であろうとも、何人も同じ人物がいるその光景は奇妙としか言いようが無く、当主達は目を白黒させるしか出来ない。
「…全員だ。」
当主は、もう自棄になり唾を吐き散らしながら叫ぶ。

「ここにいる全員、捕まえろ!!」
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