第1章(前編)

「明かり、消えたな。」
「…そうですね。」

明かりが消えたのにも関わらず、二人は動揺を見せずにゆっくりと周りの様子をうかがっていた。
耳を澄ますと屋敷の遠くで、警備員達の騒ぐ声や命令を飛ばす領主の声が聞こえた。
「…こうしてみると、屋敷の中にいなくて良かったかもな。」
「ノイ、ちゃんと集中して下さい。」
「へいへい。」
二人はその場から動かずに、留まった。
少しの静寂が訪れても未だに明かりは点かないままだったが、時はすぐに来た。

「…ノイ。」
「そこだッ!!」

二人がいる位置から斜め前の所へノイが蹴りを入れる。

ドンッ!!

鈍い音が聞こえた。
「…何も見えないけれど、そこにいるんですね。」
「感触があったし、それにこの場所は俺たち以外配置されていないはずだからな。」
二人は目には頼らず、気配や音だけで人の存在を感知出来た。
船員たちの中で、戦闘能力が高いのはこの二人で、荒事には決まってこのペアが出来上がる。もっともノイは不本意なのだが。

「姿見せろよ、怪盗。」
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