多勢に無勢、使用人の数が少なくなったとはいえ、警備員だけに留まらず関係の無い他の使用人達までこちらに来られては太刀打ち出来ない。
それでも、最後まで抵抗しようとナイフを投げ続けたが、盾に阻まれあっけなくまた捕まってしまう。
（…ざまぁねぇって言われちゃいそうですね。）
両手だけでは無く両足も拘束され、地に伏す事しか出来なくなったサナの前に先程の声の主が現れる。
「―この、放蕩者が！！」
無抵抗なのを承知で腹に向かって容赦の無い蹴りが飛んできた。
衝撃で口から唾液が出てしまうも、相手の怒りが収まらない様で一度では止まらない。
「育てて貰った恩を忘れ出て行き、戻ってきたと思えば金も家も用意してやると言っているのに帰らんだと…誰のお陰で生きていられたと…！」
「ぐっ…う、アッ…ガッ！」
二度、三度、四度、と重ねるごとに衝撃が重くなるような気がして、せめて急所には当たらないようサナはその身を捩るも、漏れ出る声が痛みを現していた。
父親はこれが最後だと言うように片足をサナの背に自身の体重を掛けて踏みつける。
「これは命令だ、ここに残れ…それしかお前の生きる道は無い。」

生きる道が一つだけしか無い？

これまで、この人物に対して大きな反抗の言葉なんてしたことも無かった。
刃向かった所で、人生の成功者でありこの家の絶対権力者だった彼に対して物言える人物は少なく、身分の低い子どもでは意見は言えず、誰も彼も彼に従っていてサナもその一人だった。
けれど、この言葉には口が縛られていたとしても声を上げる選択肢を取っただろう、何故なら。

「そんな訳…あるはずがないでしょう！！」

誰よりも自由を謳歌する海風に包まれた彼等の姿を思い出しながら、彼は叫んだ。