第5章
ボーガン、石弓の一種であり矢を板ばねの力で弦により遠い位置に居る対象に向けて発射する武器。
つまりは近距離より長距離用に使う物ではあるのだが。
(近距離であっても武器は武器…!)
彼の手が震えているとはいえ、自分に当たらないとは限らない。
しかしながら、こうしている間にも自分達に気付いて他の警備員がこちらに向かってくるだろう。
「み、みつ…ッ!」
大声で叫ぼうとした所にサナはすかさず錆びたナイフを投げその後の言葉を封じ、すぐさま懐へと潜り込み、片腕で首を絞める。
「ぼ、坊ちゃん…。」
相手は自分に対して武器を向けた相手。
武器を相手に向けた時点で、自分を仕留めるという覚悟があるという事。
けれど、この警備員は見覚えがある。
雇い主の子どもとはいえ、面倒をみてくれた人物の一人だった。
だが、それがどうした。
縋るような、憂うようなその視線を受けてもサナはチューブトップの裏側に隠してあった粉薬を彼の顔に勢いよくぶつける。
相手は咽せ、ごほごほと咳をしながらしゃがみ込む。
(メソドちゃん特製の粉薬…主に眠り薬として使うものだけれど、効果も苦さも市販薬なんかより倍ある特級の薬なんだから!)
目を潰さなかっただけでもありがたく思って欲しいとそのまま元の木へと戻ろうとする。
「そこまでだ。」
聞き覚えのある声が、そこに響いた。