第5章


あの時は、皆が寝静まったのを見計らって出て行ったのを覚えている。

あれだけ蝶よ花よと育てられたのに、自分に非があった事とはいえ家族とは思えない冷ややかな対応に嫌気が差し、限界に来ていた。
(ここじゃない…ここじゃない、どこかに行きたい!)
それだけを願って、高い塀をよじ登り外へと飛び出す。
どこでもいい、自分を開放してくれる場所ならどこへでも行こうと決心して。

結果的に行き着いた先は、金銭的に豊かじゃない、沢山働かされる、予想外な事がほぼ毎日起こるあの船。
それでもあの場所には。

壁近くの樹木にしがみつき、服や髪型の乱れを気にする事無く必死によじ登る。
ここまで来たのなら、塀と同じ高さまで登り、外へと伸びている枝へとその手を伸ばす。

ヒュッ

鋭い風を切る音が耳に入り、即座に地上へと降りたサナの眼前には、カタカタとその身を震わす警備員が現れる。
「…すみません、坊ちゃん…でも、貴方にまた居なくなられたら…!」
その手には、先程放ったのであろうボーガンが握られていた。
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