第5章
アスタニア家。
ロワイ島の中でも名家に数えられ、長きに渡り法律の発展に携わってきた。
勿論サナの父である彼もそうではある、が。
老いという不治の物からは逃げられはしなかった。
後継者達が次々と病に倒れ心の支えが無くなった彼は、精神的に追い詰められ次第に使用人達に当たり散らすようになり、使用人が離れてゆく結果となる。
日々自らの記憶が欠けてゆくのを感じながら、それでも忘れられない存在があった。
深夜、豪奢なデザインが施された扉が、夜なのも構わずガンガンと大きな音で叩かれる。
「喧しい!」
騒音で起こされ唾を飛ばしながら怒鳴る当主に対し、音の元である警備員が「すみません!」と謝った。
「ご子息が…脱走されました。」
「何だと!?」
寝間着なのも構わずに警備員と共に外へと彼は飛び出してゆく。
「全く…無駄に広い庭が、今は雑草だらけなんてね。」
お陰で隠れるのに最適な環境にはなっているのだが、とサナは身を屈めながら照らされる灯りを避け出口を探す。
地下から脱するのまでは簡単だったのだが、道すがら警備員に見つかってしまい今に至る。
警備員から逃れる事は出来たが、応援を呼ばれ恐らく使用人全員で捜索されている。
(…前の時は誰にも見つからなかったのにな。)
やはりそういう存在と見なされてしまったのであろうと考えてしまい首を振る、既に終わった事を今思っても仕方の無い事と自身にサナは言い聞かせた。
夜空の光を頼りにして、人を避けながら逃げ道を必死に模索する。
