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第5章

(さて、この呆け老人…どうしてやろうかしら。)
元より、この家の主である父親に刃向かう人物はサナが家出した時までほぼ皆無の状態であった。
流行病で亡くなった兄達がその役割だったとしても、故人なのだからどうすることも出来ないし、嫁に行ってしまった姉達や、家に居るのかさえ分からない母親も当てには出来ない。
使用人達も力の無い者ばかりで、この老人の暴挙を外へ向かわせない為に必死でやりくりしてきたのだろうと、サナは最初に会った老いた門番の顔を思い浮かべながら思う。
呆けてはいても、その体に老いを感じる事は無く、寧ろ先程の暴力の力加減から体力に関してはほぼ変化が無いと思われる。
(まぁ、呆けているからこそ、力加減が出来なくなった、とも思えるけれども。)
マツリと共に出掛けたあの日、家の事について情報収集はしたものの「最近見ていない。」「何も知らない。」と芳しい物が無かったのは、この内部の状態を知らせないよう徹底的に秘匿されていたのだろう、とそこまで考えが及ばなかった自分に腹が立ち、思わずサナは唇を噛みしめるも、首を振る。
(…いや、ここまで意図的に家から逃げ続けて、この土壇場に来るまで向き合えなかったのは…わたし自身。)
息を吐く。

無事にここに帰ってくるって、言ったから。
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