第1章(前編)
「……。」
あの二人に尾行がばれてしまったのでおとなしく家に引き返したマツリは、なぜ海賊たちが領主の家に行ったのかを考えていた。
(一番妥当な考え方は、領主の家の財宝目当てか…でも、偵察に行くにしたって、あの人数はなめすぎでしょ、他にも別の道に仲間がいてあの後合流して攻めに行くとか?)
さまざまな思考を巡らせていたが、マツリは結局この答えに落ち着いた。
(島民たちの安全があたしとじっちゃんの一番大事だから領主の安全なんて関係のないこと、だよね。)
マツリとムマジの仕事は島の警護だった。
警護といってもその仕事はさまざまで、危険人物の観察や海の様子の見張り、島の揉め事の仲裁などで領主が雇った警備員とはまた違う自警団に近いものだ。
(…どうせ、今の領主がいなくなったとして、新しいのが国から派遣されるでしょ。)
とりあえず、島の皆が海賊に危害を加えられるようなことはないことがわかってマツリはほっと息をついた。
「マツリ、帰ってきたのか。」
足を少し引きずりながらムマジがゆっくりと降りてきた。
「じっちゃん、無理しなくていいよ。」
その様子を見たマツリはおとなしくするように言うが、ムマジはご飯の支度をするからと言って聞かない。
「もう、頑固者。」
「それはそっくりそのままお前に返す。」
ところで、とムマジはマツリに聞いてきた。
「客は誰だったんだ?」
そう聞かれて、マツリは事の詳細をムマジに話した。
「フム、そうだったのか…。」
すべてを聞き終わったムマジはマツリにこういった。
「ひょっとしたら、怪盗がらみのことかもしれんぞ。」
ご飯を食べる手をピタリと止めて、マツリはムマジを見た。
「怪盗って…。」
「ああ、完全に俺たちの管轄外だがな。」
愉快そうに笑うムマジをじっとりとした目でマツリは見ていた。
「悪い悪い。」
だが、とムマジはこう付け加えた。
「今度の仕事は大変なことになりそうだぞ、覚悟しておかんといかんな。」
