第5章
ゆっくりと、しかし確実にその時は迫る。
嵐の前の静けさと言うべきか、ロワイ島への海路は何事も無く進んで行く。
「…船長、ロワイ島ってどんな所なんですか?」
あの襲撃後の夜の会談から数日、あれから何も変わらすに過ごしているように見えるサナも、島が近付くのが分かっているのか仕事に趣味にと考えを打ち消すかの様に忙しなく動いている。
そんな本人の前で言うのは流石に気が引けて、マツリはサナの故郷である島を詳しく知っていそうな人物の一人である船長の部屋まで聞きに来ていた。
「そうだな…程々に発展している島だな。」
ここに資料がある、と告げられ指を差された本を取り出しそこを開いてみる。
「わ、素敵な石畳…人も多くて…素敵な町があるんですね。」
「絵の所はな。」
目次の所を見てみな、と促されて最初のページをめくる。
「歴史、観光地…注意事項?」
ぱらぱらと示されたページを開いて見ると、挿絵は無かったものの大きなサイズで書かれた文字は子どもが読むには刺激的過ぎてすぐにマツリはぱふんっと本を閉じてしまった。
「…法が厳しい島でな。」
マツリの様子を静かに見守っていた船長がぽつりと呟く。
「アスタニア家が法に関わっていた事もあって、法についてはこの世界の中でも厳しく敷かれている方の島と言ってもいい…だがな、厳しく縛られているからこそ歪む物だってあんだよ。」
「はい…。」
赤い顔が治らないままのマツリは彼の言葉に頷き、本から顔を上げて船長へ問う。
「以前『世の中には、特殊な嗜好がある』とサナさん自身に教えて貰った事がありました…つまり、サナさん自身もそれの被害者になった事が…?」
「それは、オレからは言えねぇな。」
何故だろう、と少女が首を傾げると彼は笑って答える。
「答えを言っちまうと考える思考が止まっちまう…マツリちゃんが頭の硬い奴になるのは望んじゃいねぇから。」
ここから先は憶測でもいいから自分で考えろよ、と言われマツリはこくんと頷く。
「それでは…この本、暫く借りてもいいですか?」
「返却期限は一週間後ね!」
先程はすぐに閉じてしまったその本を今一度大切に抱えてマツリは船長室を後にした。