第5章
「―――――とまぁ、そんな感じで貴族の実家を家出して、ぶらぶらしていたのだけれど、いい加減ずっと安定して住める島を見つけたくて…そんな時に船長に会って、助けられて利害も一致していたから海賊に加入して今に至る訳。」
口調では軽く話すものの、想像以上の壮絶な人生を垣間見てしまったような気がしてマツリは顔を青くしていた。
他のメンバーは知っているのか、知らないのかは判別出来ないものの、皆一様に黙って彼を見つめている。
「だから…今更実家に呼び出されるなんて、思わなかったのよ。」
かさり、と机の上に描かれている自分の顔に触れ、爪をそっと立てた。
「この名字だって、もう捨てているつもりだったのよ?」
口元は微笑んでいるものの、目の前の紙には爪痕が深く、更に深く刻まれる。
この世界では、名字は限られた者しか名乗る事は無い。
名乗っている者は、高貴な部類の貴族や、昔の英雄として祭り上げられた人物の子孫など…その希少さは一つの島に一人いるかいないかの割合だった。
「アスタニア…確か、領主制度を創設した人物から来てる政治家の血筋だったか…。」
「あら流石船長、よく知っているわね。」
今まで黙っていてごめんなさいね、とサナは謝るが「元々あの出会いの時から訳ありだったんだから、今更だな。」とにやりと笑いながら告げられ美形も笑顔が移る。
「…話を戻すと、これまでずっと追っ手を出さなかったわたしの両親や兄弟が、何故今更探す事になったのか…それが事の発端ね。」
「結論を急かすようで悪いが…どうすんだ?」
メソドが再度、サナに聞く。
「直接会いに行きますよ。」
しん…と、その場が静まりかえる。
「人様にこんな多額のお金をかけて探させるなんて…お金目当てで襲われても迷惑ですし、これはわたしが解決させなければならない問題でしょうから。」
「で、でもサナさん…。」
相手はサナを見限った相手と知ったマツリは不安でしかなく、このまま逃げた方が良いのではと声を掛けるも、彼は首を振る。
「心配してくれてありがとう…でも、過去は変わらないもの。」
息を一つ吐き、サナは海賊の仲間全員に伝わるような声を出す。
「こんな出来た息子を捨てて後悔した戻ってきてくれ!…って情けない面を拝みに行って、無事にここに帰ってくるから。」