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第5章

いつもは穏やかな時間を多く過ごす海賊船の居間とも呼べる食堂が、今は静まりかえっていた。
「これが問題のブツだ。」
どういった尋問をしたのかは省略されたが、無事に聞きたい事は聞き出せたらしく、まずは彼等から絞り出された結果から発表される。
ぴらりと音を立てながらテーブルの上に置かれたのは一枚の紙、これを賊の誰かが持っていたらしい。
「…これ。」
マツリには文字全て読み取れなかったが、似顔絵が書き込んであるその紙は人を探す為の物だった。
しかし、問題なのはそこではなく。
「ああ…間違いなく、うちの船大工の事だろうな。」
船長の言葉を受けてずっと俯いていたサナがようやくその顔を上げ、いつも笑みを絶やさないその表情に明らかな変化が起きている事をその場にいる全員が知る事となる。
それもその筈で、描かれている顔は彼とそっくりでしかも名前まで同じ、違う所があるとすれば、名前の下に名字がある事や、絵の彼は少し年齢が違うように見える箇所だけだった。
「…ええ、そうね。」
あくまで落ち着いた声で返答をする、しかしその目線は定まっていない。
「聞きたい事はまぁあるが…問題はこの金の額だ。」
船長の指が似顔絵から下に記載されている数字へと移動する。
「一、十、ひゃ…え、これ…。」
「…まさしく桁違いだな。」
マツリとノイが数を数えようと身を乗り出すと、明らかに人捜しに使う報酬金とは思えない程高額なものとなっていた。
「売りますか、わたしを。」
船長の言葉を待たずに切り込むような口調で彼が聞く。
その場の空気が更に張り詰めたものになるも、すぐに返事が来る。
「いんや、お前が嫌なんだろ?」
「…はい。」
なら売らねぇよ、と告げるリヒトに少しほっとしたのか、サナは一つ息を吐いた。
「ただ、な…さっきの奴らみたいにお前目当てでこの船を襲いに来る輩は増えるかもしれねぇな。」
「そうですね。」
船長の言葉に続けてメソドが相槌を打ち、美形に問う。
「これからずっと逃げ続けるのか?…変装やら隠れるやらして躱す事なら出来ると思うが…あまり長期戦にするのは、この海域の事も考えると良い選択とは言えないぞ。」
メソドの言葉に端から聞いていたマツリは疑問が湧く。
「海域…?」
最近船の操縦も始めているマツリは、船長に前教えて貰えた海の地図を見ながら操縦をしているのだが、この季節において周辺の海は穏やかで、特段警戒することは天候くらいしかないと思っていた。
マツリの呟きに呼応するように、サナが「そうね。」と口を動かす。

「わたしの生まれ故郷、ロワイ島がこの近くにあるのよ。」

そして、そこにはこの紙を作った本人達もいるでしょうね、と彼は静かに呟いた。
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