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第5章


大きく広い海、その上にぽつんと浮かんでいる海賊船。
その周りを船が囲み、さざ波の音を掻き消すような人の声が飛び交っている、つまりは。

「敵襲だ!」

見張り台にいたメソドが声を張り上げて叫ぶ、その声と同時に動ける船員達が各自応戦を開始する。
「命が欲しけりゃ、有り金全部持って来い!!」
短刀を持ち、海賊達に対して脅し文句を叫ぶ無法者達。
「…逆に言わせて貰うけど、命が惜しかったら引いた方が身の為だぞ。」
笑みを浮かべながらも、一切の油断もしない冷酷な片目が覗く。
何を…と相手の口が開くのとほぼ同時に鞘に収まっていた武器が爆ぜるような勢いで相手の懐を突く。
「まだ…浅いな。」
そう呟くものの、数える間もなく接近してきた船長に対して、相手はじわじわと広がってゆく痛みと熱さに顔を歪ませていた。
「手加減出来たしちょうどいいか。」
さて次と、言わんばかりに彼はその場を離れる、その一方で船の先端付近でドボンッ!と水の音が響く。
「人のモン盗むならッ…それなりにッ、鍛えとけ!」
それはノイが倒した無法者を投げ飛ばしている音だった。
「あんまり雑に扱わないで下さい、貴重な情報を持っていたらどうするんですか。」
冷静に言いながらも、ノイの近くでサポートするように的確にナイフを投げ、賊達を威嚇するサナをノイは鼻で笑う。
「ハッ、持ってたらひでぇ拷問する癖によく言う。」
「話せる口や喉くらいは確保して欲しいって話です…よ!」
海に落としたにも関わらずまた船に昇ろうとする人影を見つけ、紅い長髪をなびかせながら容赦なくナイフを投げる彼に「へーへー。」とノイは心のこもっていない声で返事をする。
「クソが、舐めやがって…!」
圧倒的な強さを見せつけられても、逃げるどころか立ち向かおうと彼等に斬りかかろうとする男がいたが、その握っていた武器が突然カランッと持ち主から離れた。
急に手が滑ったのかと動揺してサーベルを拾おうとしゃがんだ瞬間。
「ぐえ…!?」
上から降ってきた何かが彼の首を襲い、そのまま船の床へ叩きつけられる。
賊は死角からの攻撃に目を回し、泡を噴いている状態なので、恐らく気絶したのだろう。
「マツリちゃん、お疲れ様。」
サナが一変して柔らかな声を出すと透明だったその体が浮き出てきた。
「いえ、サナさん達も…一番多い所をお任せしてすみません。」
「何言っているの、マツリちゃんはまだ経験を積まなきゃ!」
不意打ち出来る力を持っていても気を付けなきゃダメよ~と助言され彼女は素直に「はい。」と頷く。
「お前が来たって事は…向こうは片付いたのか。」
「船長がほぼ仕留めちゃいまして…。」
メソドさんも上から助けてくれましたし、と船の帆の先を指差す。
不自然に痙攣を起こし伸びている男達は、メソドの上から降ってくる毒針がその体を蝕み立つことさえ出来ないでいる。
その中の一人が、苦しみながらも言葉を吐いた。
「く…そが、折角久し振りの稼ぎになると思ったのに…。」
「お生憎様、こちらとて同じ状況です。」
さてと、と早速サナが男達を拘束しようと縄を準備し始めると、縛られた一人が口を開く。

「…サナ・アスタニア、か?」
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