第一章


それから退院するまであたしは雲流丸と夜に会話することが楽しみになった。けれどその代償に…。
「…三絵、なんかクマできてない?」
「え?」
「うん、寝不足?」
あの日、雲流丸と会話をし始めて2日目、ついつい長話をしてしまって昨日寝るのが遅くなってしまった。鏡を見ると確かにお見舞いに来てくれた芽衣や林檎が言っていた通り酷い顔をしていた。
「確かに酷い…。」
「ちょっと自覚なかったの?」
「うーん、昨日はちょっと夜更かししちゃったかな…?」
「あんまりだらけた生活送っていると暇つぶしのゲームとか没収されちゃうよ?」
「うわっ、それだけは避けたい。」
と話をしながらあたしはたまっている宿題に手を付けていた。最初にお見舞いに来てくれたとき言ってくれたプリントと宿題を届けるという約束を守り、二人は大体3日おきに来てくれる。ちなみに申し訳ないからという母さんが2人を送迎している。
(…正直、こうやって定期的にお見舞いに来てくれたから、あたしの精神状態が悪化しなかったのかなぁ。)
視えないものが視えるようになって、すごく不安だったけれどこうしていつもと変わらない日常がある。それが、すごく助かったと思う、たぶんだけど。
「ちょっと、手が止まってる!」
「林檎先生、芽衣先生が厳しいです~。」
「もう少しだから頑張って三絵ちゃん。」
「ほら、こういう風にもっと優しく指導してよ。仮にも病人なんだから~。」
「飴と鞭でちょうどいいでしょ。」
「え~。」

このやり取りがとても心地いい。

「よし、できた。」
「見直しは?」
「…芽衣は将来いい教師にでもなるつもりなの?」
「まあまあ。」
幸いたまっていた宿題は、自己添削をするものだから、楽に終わることができた。
「退院したら授業進んでいるんだろうなぁ、行きたくない。」
「しょうがないでしょ。」
「あたしたちが教えるよ。」
「もう林檎優しすぎ、天使。」
「ていうか、進んでいる授業に参加することなら、林檎の方が先輩でしょ。」
「あ、そうか。」
林檎は病弱でよく熱を出して、学校を休むことが多い。
「あんまり自慢できることじゃないけどね。」
「でも、成績は落ちていないからすごいよ…。」
「それに比べて誰かさんは学校行っているのに居残り常習犯だもんね。」
「それを言うか…。」
あたしは算数がどうも苦手で、いつもまとめテストでは赤点を取り居残り再テストを受けている。
「でも三絵ちゃん体育は得意じゃない、あたしはその方がうらやましいな…。」
「いや、そんな自慢することでもないから。」

そうこうしているうちに日は暮れて夕方になった。
「じゃあ、あたしたちはこれで。」
「またね、三絵ちゃん。」
「…うん。」
そういって2人はあたしの母さんに連れられて病室から出て行った。
分かってはいるけれど一人になるとやっぱりさびしい。でも、また会える。あたしは、自分の目の下にあるクマを取るために夕食を待つまでの時間寝ることにした。
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