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第四章

お母さんには友達のあたし達は簡単な挨拶だけして、先に帰された。
「もうだいぶ日も落ちているから…今日はありがとうね。」
深々と挨拶され、お母さんは何も言わなかったけれど、あたし達の様子を見て事態がどうにか収まった様だという事は理解したみたいだ。聡士さんは、まだお母さんと個人的に話があるとの事で、そこで別れる事になる。
(…正直、良かった。)
芽衣が居てくれる事は分かっていても、あんまり信用ならない人間だという事は今回の件でだいぶ分かったので、少し距離を置いておきたかったから。そそくさと帰ろうとするあたしに、玄関先で聡士さんがそっと耳打ちをしてきた。
「それ、暫く持ってていいよ。」
何が?と思ったけれど、そういえばさっき雲流丸が使った木刀を返していないままだとやっとあたしは気付く。
「いや…流石にこんな立派な物を返さないなんて…。」
急いで返そうとするけれど、聡士さんは手を振り断る、その代わり…と口の端を上げて告げる。
「霊媒師…興味があったら声を掛けて。」
れいばいし?と聞き返そうとしたけれど、ふわりと離れてしまい、今度こそそこで別れとなった。
 
帰り道の途中、先程の聡士さんの言葉を芽衣に言うと、めちゃくちゃな顔を見せてきた。
「うわ、何その出来るシワ全部顔に寄せましたみたいな表情。」
あんまりな顔に雲流丸は怯えてあたしの後ろに隠れてしまう。
『…やっぱり目をつけられたか。』
こちらも複雑な感情を持っているみたいに、苦々しく大助さんは呟く。
「うんと…まず、れいばいしって芽衣や聡士さんの事って思っていいの?」
触れてこなかった世界なので、今一度確認をすると、芽衣はどうにかシワを引っ込めてどうにか冷静に話してくれる。
「簡単に言えばそう…幽霊とか人には見えないものと対話が出来る人間の事。」
それなら今のあたしもある意味霊媒師と言えるのでは?と首を傾げると、その言葉には続きがあった。
「更に言えば、霊媒師は悪霊の除去や、心霊現象の解決、人間と幽霊のバランスを保つ専門家…かしら。」
その説明で、自分はそんな存在じゃないなと納得する。
『…まあでも、嬢ちゃんがやろうとしている事は、それに通じるものはあるな。』
「え?」
大助さんの言葉に目を丸くすると、だってよと彼は笑う。
『幽霊が視える一般人は居ても、その幽霊を昇天させようなんて…考えないからな。』
そうか…とあたしは今一度複雑そうな表情を浮かべたままの芽衣を見る。
(芽衣達は…専門家だから、どうにかしようと頑張ってくれていた訳か。)
前回の件といい、今回の件といい…周りに理解されないのが当たり前な状況を何度も経験してきたのだろう。
 
それを知りながらも、あたしは。
今回の件で、はっきり分かった事がある。
 
「あたしは、まだ何も知らないね。」
自分に悪口を言うつもりじゃない、けれど本当の事を言葉にする。あたしの声に芽衣は返事をしない。ならとあたしは構わず続ける。
「それで…あたし一人じゃ何も出来ない事も、今日思い知ったよ。」
だから、とあたしは真っ直ぐ前を見た。
 
「知りたい、霊媒師の事。」
 
もしその道に今日みたいなピンチを撥ね退ける力を持てるとしたら、もしその道にあたしにとって大切な人を守れる方法を知れるとしたら。
 
もし…隣にいる恩人の幽霊を救える術を得られるのなら、あたしは。
 
「大変だろうなって事は分からないなりだけど伝わるよ、だけど。」
あたしは不安そうにこちらを見つめる雲流丸を見てから、芽衣に言う。
「お願いしたい。」
真っ直ぐに頭を下げる、それまで隣で歩いていた芽衣だけど、あたしの動作を見て一度歩みを止めた後…ずんずんと先を歩いていく。これはやっぱり…と頭を上げようとしたその時、ぽつりと言葉が降ってくる。
「―その幽霊がいる間だけ。」
それだけ言って、芽衣は去って行く。顔を上げると『またな。』と手を振る大助さんと共に芽衣はあたしに顔を向けずに帰っていった。気付けばもういつもの別れ道に辿り着いている。
『三絵殿。』
「―あの、さ。」
声を掛けてくれた雲流丸にあたしは笑顔を向けた。
「頑張るね、これから。」
あたしがやりたいと思って進んだ道、だから後悔はしていない…それが伝わったかどうか分からないけれど。
『それがしも、尽力する。』
こう答えてくれたから、きっとあたし達は大丈夫だ。
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