第一章


初めて視た時は、自分がおかしくなってしまったのかと思った。

だって、今まで視えていなかったものが視えて、しかも声まで聴こえてしまうだから事故の影響なのではと思った。だけど、お医者さんには相談できなかった。何故なら、あたしがこれ以上他の人に迷惑をかけてしまうのが申し訳なく、後ろめたい気持ちにかけられたから。幻視や幻聴と自覚するだけでまだいいじゃないかとも思ってしまった。だからあたしは我慢することにした。
正直あたしは幽霊なんて信じていない。だからこの視界から視える光景はいかにもそういうもののように視えるが、他の人に言ったとしても、あたしにしか視えないのなら信じようがないだろう。

『嘘つき』

…そう、信じようがない。
まあ、あたし自身が正常なら今後の生活にも支障はないだろう。

あまり美味しくない病院の食事にも慣れたけど、この状況は正直慣れない。もしこのまま視えたり聞こえたりするならば退院したらちゃんと相談しようかと考えを変えようと思いながら食事をしていると、視線を感じた。
(…またか。)
基本的に幻聴や幻視が視えたり聴こえたりするのは、あたしの病室以外なんだけど、あいつだけは何故かあたしの病室内に現れる。
(…なんだかな。)
他のやつとは違って、血も流していなければ、泣いているわけではなく、そしてその姿は時代劇で見るような格好だった。寂しげにみえるその表情にあたしはたとえ幻だとしても声をかけたくなった。
(あたしは何も、変わっていないな。)
つい、声をかけてしまった。

「ねぇ、何してんの?」
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