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第四章


肝が冷える、という表現がこれほど合うことも無いと思った。

「…ッ!」
目の前の光景にあたしは絶句するしかなかった。
部屋の中心に敷かれた布団の上で寝ている林檎の近くに一匹の大蛇が横たわっていた。
大蛇はあたしたちのことをドアの向こうからでも知っていたように、こちらを射るような視線を放っていた。
「…中々の大物だな。」
言葉とは違い、酷く冷静な声が後ろからした。
振り向くと先程話していた人物のはずなのに、何かが違う人があたしの前に立った。
「今回は、一匹…?」
「一匹…違うな、これは集合体だ。」
芽衣もあたしの前に出てきて札を取り出した。
一匹に見える大蛇は、確かによく見ると小さな蛇の集合体でうじゅるうじゅると動く様子がまた気味の悪さを増させた。
「これは…何?」
「動物霊って言葉を知らない?」
あたしの疑問を拾うように聡士さんが声を掛けてきた。
「…言葉だけなら。」
「最近だと飼っているペットの葬儀とかで使われる言葉かな…どんな生き物でも魂は等しくある、人間も恨んで幽体になれば怨霊になるし、また他の動物も…ね。」
じりじりと向こうのこちらの間合いを確認しながら聡士さんは説明してくれた。
「ちなみに、今林檎ちゃんはこの蛇に憑りつかれている状態だ。」
「…え?」
「もっとも、これだけの大物に憑りつかれて寝込んでいる状態も、かなり凄いのだけれど。」
「凄いって…。」
「林檎ちゃんの精神力が、だよ。」
言われて、思わずあたしは林檎の顔を見た。林檎は寝息一つ一つが重々しく、汗の玉がそのおでこから流れて、如何にも風邪を引いているように見えた。
「こうして風邪の症状の様になっているだけでも特異な例なんだ、動物霊は憑りついた人間の性格を変えてしまったり、様々な欲に溺れやすくしたり、様々な症状を出すんだ…まあ、他にもあるけどそれは追々説明するとして。」
芽衣はあたしの前に片手を出して、目で制してきた。

言わなくてもその視線を見れば分かる。

「………。」
あたしは無言で芽衣たちの居る場所から一歩下がった。
聡士さんがあたしまで連れてきた意図は分からないけれど、ここであたしができることは何一つ…ない。

「…じゃあ取り掛かるぞ、芽衣。」
「分かってる。」
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