第四章
(気を付けた方が良い、かぁ…。)
林檎の家に向かう途中、自転車を運転しながらあたしは雲流丸に言われた言葉を思い出していた。
雲流丸には確かに生前の記憶は無いようだけれど、言葉遣いや知識とかはしっかりしていて、記憶は欠如していてもそういった知識とかはしっかり持っているみたいだった。
大型連休中にダメ元で宿題を一緒に取り組んだ時も、算数や理科はともかく、国語の問題は大体分かったようで、後半は任せっきりだった。
(あの常時おどおどしている幽霊がどんな人生を送っていたか知らないけど…。)
生活を共にしてほぼ一か月、あたしと雲流丸はそれなりに信頼関係を築けている…と思う。初対面が初対面だし芽衣には申し訳ないけれど、信じるとすれば雲流丸かなと考えた。
けれど。
「やぁ、数日ぶり。」
「………。」
「………うそぉ。」
何故か林檎の家の前に芽衣と一緒に聡士さんがいた。
(流石にこれは予想してないよ、この人意表を突くのが得意なの…?)
「じゃあ、行こうかお見舞い。」
「えっ、あのっ!?」
早々に林檎の家の玄関に行こうとする聡士さんにあたしは驚いて声を上げてしまう。
「何で聡士さんがここに!?林檎とは初対面じゃ…。」
「いや、林檎ちゃんは知っている…向こうはこっちを知らないけれど。」
あたしは顔から熱が下がってゆくのを感じながら、芽衣に視線を移した。
「…あんた、それ誤解を招く言い方よ。」
「本当のことだろう。」
「エットォー、ツマリドウイウコトデ??」
まるで片言で日本語を話す外国人の様に必死で言葉を紡ぐあたしの言葉に、彼はこう答えた。
「付いてこれば、これが封場の仕事だと分かる。」