第三章


風羽家所有の車の中。
芽衣が珍しく申し訳なさそうにあたしに話しかける。
「もう、そろそろ着くけど。」
「…うん。」
車に取り付けられているミラーから見ることができたけど、今の自分の姿は我ながら滑稽だと思う。
幽霊の二人も芽衣と同じような心配の視線を向けてくる。

漫画的な表現で例えるなら、今のあたしは。
口から魂が出ているような状態だった。

あの後、あたしが返事をするよりも先に芽衣が動いた。
聡士さんに向かって、蹴りを入れたのだ。
「三絵に何てこと言ってんの、馬鹿!!」
「兄にむかって馬鹿とはなんだ。」
「常識とか考えろ!!」
兄妹喧嘩が目の前で始まってしまったが、当のあたしはそれどころじゃなかった。
『…み、三絵殿。』
ふわりと雲流丸が目の前に現れたけど、あたしは一歩も動かなかった。
いや、動けなかった。
自分に何が起こったのか、自分が何を言われたのか、今まで多大な情報を吸収してきたのにこの期に及んで自分の人生に関わる選択を迫られて体も頭も働くことを拒否していた。
ただ、ぼんやり憶えているのは、あの後更に芽衣が暴れて着ていた着物が乱れたこと、雲流丸がしきりにあらゆる方向からあたしの名前を呼び、茜さんがその場を治めるのに必死そうだったことくらいだった。

(一回幽体離脱を体験したっていうなら、口から魂が出ていてもおかしくないんじゃないかな。)

割と本気でそんな馬鹿なことを考えた。
「…ごめん。」
ぽつりと芽衣が謝罪してきた。
「何で?」
心当たりが無かったからあたしはすぐにその理由を聞いた。
「家に来なかったら、こんな事にならなかったのに…。」
「…いや。」
昨日の様子からでも芽衣が家に呼ばなかった理由が何となく分かった気がした。
別に、茜さんが信じられない訳でもないし、聡士さんの告白を受けたからじゃないけれど。
「友達として、呼びたくなかったんだよね?」
「………。」
「間違っていたら、ごめん。」
でも、そんな気がしたあたしは更に話を続けた。
「そっちの家の事情は、あたしには分からないけれど、そういうことに触れてしまったあたしを助けようと頑張っていたんでしょ?」
「…そこまでじゃないけど。」
「まあ、なんにせよ。」
車があたしの家の前に止まり、あたしは車のドアを開けた。

「芽衣の友達であることはこれからも続けるつもりだから、これからもよろしくね。」

運転をしてくれた使用人さんにありがとうございましたと挨拶をして、あたしは雲流丸を連れて、家に帰った。
11/12ページ
スキ