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始まり


どうやらあたしはいわゆる交通事故に遭ったらしい。

…うん、全然覚えていない。抱きついて泣き出しついでにあたしをまた永遠の眠りに誘おうとした母さんが言うには完全に向こう側が悪いらしい。
「居眠り運転ですって。まあ、時間帯が朝でその人夜勤明けで帰る途中だったらしいけど。」
しばらくしてしゃっくりが収まったのか、ゆっくり話し始めた。
「幸い三絵の怪我は軽傷だったのだけど脳震盪起こしたらしくて三日間ずっと寝ていたのよ…。」
「そうなんだ、本当全然覚えてないや。」
あたしの言葉にまた母さんは泣きそうになったけど、ぐっとこらえて、絞り出すような声で
「本当に良かった。」
と言ってくれた。
自分のせいではないけれど、あたしはどこか嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。

「また来るね、三絵ちゃん。」
「まあ、三絵が学校に行けない間のプリントや宿題は持ってくるから。」
もう6時という事もあり2人は母さんの車で家まで送ることになった。ここの病院はあたしたちの家から徒歩では少し遠いのだけど、行きはバスでわざわざ来てくれたらしい。だけど、あたしたちは一応、小学生4年生なので暗くなると危ないという何とも心配性の母らしいお礼の仕方である。
「今日は2人ともありがとうね。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
「お母さんも今日は帰るわね、お父さん家に置いて来ているから。」
そうか、父さんは家か…。
「…家事は大丈夫?」
「…大人だから信頼しているよ。」
母さん、何その間は?

母さん達が家に戻った後、食事が病室まで届けられた。その際に看護師さんに聞いたところ退院には最低二週間はいるらしい。
「脳震盪は後遺症が酷くなることがありますから、基本的には安静にしていて欲しいです。」
「そうですか…。」
「でも、激しい運動をしなければ病院内なら歩いても大丈夫ですからね。つまらないかもしれませんが、病院内には図書館や購買とかもありますから。」
「はあ…。」
「あと、軽傷であっても怪我はまだ完治していないので、その治療もあります。」
「分かりました、ありがとうございます。」
「いえ、それでは失礼します。」
やけに丁寧な口調の看護師さんは病室から出ていった。

食べ終わったあたしは、窓から外の景色を見てみた。何階なのか覚えていないけど、とても見晴らしがよく、都会には負けるけど小さな明かりの集合体が綺麗に思えた。
「…ん。」
だけど、次にあたしの目には気になるものが映った。それはあまり濃いとは言えないけど霧みたいなものだった。
「夕方見た時は晴れていたのにおかしいな。」
ひょっとしたらこれも脳震盪の影響なのかもしれない。よく分からないけれど。
「…今日はもう寝たほうがいいのかな。」

この時はそんなに気にしてはいなかったけど、もうこの日、この時間には、生まれ変わったあたしの視界は色んなモノを映すようになった。
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