第二章


「…これでいいのかな?」

雲流丸が消えない為にお供え物が必要だと分かり、夕食後に適当なお菓子を部屋に持ってきた。
「記憶もないから、好物とかは分からないっけ?」
『そうでござるな…。』
床に散らばるお菓子を見てうーんと首を捻り、どれがいいかを考えていた。
「でも、芽衣の言うことが正しかったら病院の時はどうしていたの?」
まさか病気の人たちから生気を吸い取っていたのではと疑念が出てきた。
『う…大助殿が言っていた通りに自覚はない。』
疑いの目を向けられて雲流丸は落ち込んでしまった為、あたしは一気に申し訳なくなった。
「い、いや!確かにそうだとしたら悪いことだけどさ、病院にはお見舞いとかもらうしそこからエネルギーを補給したかもしれないし!」
慌ててフォローを入れたが、雲流丸の顔は晴れない。
『…正直。』
「?」
『これまで霊として過ごしてきた中で、そんなことも知らずにのうのうと過ごしてしまったことが悔やまれる。』
言われてハッとした。
(そういえば、雲流丸はずっとあの場所にいたって…。)
『消えたいと思っているくせに、人の生気を無自覚に吸って存在していたと考えると…』
雲流丸の考えていることは確かにもっともなことだった、けれど納得がいかなくて、あの言葉を言った。
「あのさ。」
『ぬ?』
「他者を傷つけるつもりは全くなかったのでござろう?」
『………?』
「分からない?」
あたしはじれったくなって、この言葉を送った。

「悪霊から助けてくれた時、あたしに言ってくれた言葉だよ。」

『…!』
「だから、気にしない!」
あたしは適当に昔の人でも口に合いそうな饅頭を手にして、雲流丸にあげようとしてあることに気付いた。
「そういえば、どんな感じに吸収するの?」
『あ…。』

それからすったもんだあって、単純に雲流丸が饅頭を触れば問題ないことが分かった。
何となくだけれど、雲流丸の姿が少しだけ濃くなったような気がする。
「ところでさ。」
寝る前に一つ気になっていたことを質問してみた。
「病院の時にあたしの部屋に来ることが多かったけど、前の人の時でもそうだったの?」
昼間の病院内でも見かけないのに、何故あの時間であの場所で決まって雲流丸が現れることをずっと聞こうと思っていた。
『……。』
雲流丸は無言で、ちょっと考えてから真剣な顔で答えた。
『分からない。』
「ええ!?」
真剣な顔の割に間抜けな返答が返ってきて、あたしは気が抜けた。
「あんなに来てたのに!?」
『それがしにも理由は分からない…。』
眉毛をハの字にして答える侍は『しかし』と付け加えた。
『それがしは特定の所にいることはあまりなかったのだが…。』
と自分でも不思議そうに話した。
「…ひょっとして、少女偏愛者とか?」
『!?』
話しが変な方向へ行って雲流丸は慌てた。
『なっ何故、そのような!?』
「あーいや、深い意味はなかったけど。」
『そんな恋愛観は持ち合わせていない!!』
「え~そんなに過剰に反応されるとな…。」
あたしはつい、いつものからかい癖が出てきてしまった。
雲流丸はその後、あたしが寝ようと言うまで弁解が止まらなかった。
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