第二章


苦しそうにうめく雲流丸の喉元を押さえるダイスケを見て、あたしはとっさに動いた。
(あたし自身どうやって霊を体に入れたかなんて憶えてない、でも悪霊や芽衣たちが見せてくれたみたいに霊体を触ることさえできればたぶん・・・!)
わずかな望みを持って、雲流丸に手を伸ばす。
「ちょっと失礼するぜ。」
ダイスケが喉元を押さえていない片手で思いっきりあたしの手を掴み、振り払う。
「くっ・・・。」
勢いよく飛び込んだので、あたしは体の重心を持っていかれ横に倒された。
ダイスケはすぐに雲流丸の首を押さえたまま、一階へ向かおうと部屋を出ていった。
あたしは起きあがり、その歩みを止めるため何か長物はないか見渡した。
(たぶん、さっきの動作から考えて戦うことができる奴だった・・・素人のあたしは、絶対に不利な立場だ。)
自分の身体能力をわきまえて、自分に出来る一番いい方法を考えろ。

一方で、一階に着いて芽衣の荷物を探しているダイスケに首を掴まれていながらもぎりぎり雲流丸は話しかけた。
『な・・・なぜ、それがし・・・を、掴むことが・・・・・・。』
「ああ、これ?」
ダイスケは威圧的な態度をとることもなく、むしろ友好的に返事をした。
「腕に特別な札を貼っているからな、まぁ・・・アンタもそのうち知ることになるから今のうちに教えとく。」
『・・・?』
「それよりも、お友達が来たようだ。」
芽衣の荷物を見つけ、ランドセルの中からトンカチを取り出した。
『な・・・。』
「女子小学生に対して物騒だと思うだろうが、勘弁な。」
そう言い、ランドセルの背負い紐に片手だけ通した。
トントントンと確実に足音がこちらに向かってきた。

『・・・三絵殿!』
「おっと。」
今一度、ダイスケから離れようと雲流丸は抵抗をしたが、簡単に床に抑え込まれてしまった。
「・・・まあ、芽衣の友達だからな、アイツにも頼まれているし下手な傷はつけねーよ。」
簡単に気絶させる方法も一応知ってるし、と左手にトンカチを構えた。

途中から話が聞こえたが、とりあえず相手がこちらに手加減をしていることが分かった。
(だったら、他力本願になるけど雲流丸に憑りついてもらってどうにか話し合いに持ち込めれば―――――)

“それ以上聞けばこいつは・・・芽衣は泣き出しちまう。”

(・・・どんなことか知らないけど。)
芽衣とは何度も些細なことで喧嘩をした、大ゲンカになることも数え切れないくらい。でも、それでも今も繋がっている。
(どれだけひっかき傷を残そうが、噛みつき傷を残そうが、今更だよね。)
このことが落ち着いたら、いつものように謝らずに、茶化して終わりにしようとあたしは決心して、ダイスケたちの前に立った。

「雲流丸を返して、事情とやらと話してちょうだい!!」

・・・いつもは軽く感じる割と古いタイプの窓拭き用のスティックを携えて。
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