始まり
目が覚めた時、最初に見えたものは勢いよく飛んでくる拳だった。
「!!!」
回避する隙もなく、見事にあたしの顔に命中する。
「ぐえっ」
「よし、起きた。」
「え、えっと…。」
聞き覚えのある声が2つした。
それは、夕日 林檎(ゆうひ りんご)と…あたしの腐れ縁の風羽 芽衣(ふうば めい)だった。
もちろん、引っ込み思案の林檎があたしに向かって拳を向けることはなく、犯人は芽衣だった。
「め、芽衣。アンタ…。」
「仕方ないでしょ。ずっと寝ている方が悪い。」
と、偉そうに腕組みをする。
ずっと…?
「あっと、その、あたしは止めたよ…?」
「大丈夫、林檎はこんなことしないことは分かっているから。」
あたしの答えに林檎は胸をなでおろした。
「でも三絵ちゃんが起きてくれて良かった。お母さんに伝えてくるね。」
そう言って林檎は急いで病室を出ていった。
「…そうか、母さんいるのか。」
「ずっといるわよ、あんたが入院してから。」
「ああ、心配性だしなぁ。」
あははと我ながら情けないような声をだして笑ってしまった。
「いいお母さんなんだからちゃんと感謝しなさい。」
「…正直芽衣の方がオカンっぽいな。」
「うるさい。」
とそっぽを向いてしまった。
「あー、ごめんごめん。」
「あと心配していたのはお母さんだけじゃないから。」
その言葉を言った時、顔は見えなかったけれど、耳がすぐに赤くなるのは見えた。それを見たあたしはついニヤリと笑ってしまった。
「芽衣姉さん、今日もツンデレが冴えわたっていますねぇ。」
「だまれ。」
そんなやり取りをしているうちに心配性である母さんが病室にやってきてあたし、石野原 三絵(いしのはら みつえ)はその母の抱きつきによる大きなアタックが原因でまた眠らされそうになった。