第一章
「三絵ちゃん、退院おめでとう!」
「まあ、おめでと。」
あれから数日経って、日曜日になって無事に退院したあたしは今、自分の家で退院祝いの小さなパーティーをしてもらっていた。
「…ありがとう。」
あたしは、照れくさかったので小さな声で二人に感謝の言葉を言った。
それでも二人は満足そうに笑ってくれる。
「それじゃあ、ケーキ買ってきたから、皆で食べてね!」
母さんが嬉しそうに台所から顔を出して、こっちにケーキを運んできた。
「って、大きいケーキだけどこれ大丈夫なの?」
「いいのいいの、二人には大分お世話になったし、三絵も大変だったもんね!」
「…本当にこんなに頂いちゃって大丈夫なんですか?」
芽衣が申し訳なさそうに母さんに聞く。
「大丈夫よ、残してもお父さんが食べてくれるから心配しないで!」
「いや、それは父さんがかわいそうでしょ。」
「お父さん、甘党だから大丈夫よ。」
「そうだったっけ?」
そんな会話が続きあっという間に時間が来て二人は帰っていった。
『ずいぶん楽しそうでござったな。』
二人が玄関から出ていったのを見てから、ずっと家の二階にいた雲流丸が声をかけてきた。
あたしは慌てて、雲流丸に小声で注意をした。
「ちょっと、驚かさないでよ…。」
『ああ、すまない。』
「それに、母さんに聞こえるかもしれないし…。」
『それは、一応確認したつもりなのだが…。』
と、雲流丸は台所で洗い物をしている母さんに目をやった。
「…とりあえず、二階に行こう。」
そう、あたしは病院から雲流丸を連れてきた。
…半ば強引に。
あの後、最初は申し出を断られたのだけど、こっちが粘って雲流丸が折れた。
向こうの言い分は
『命の恩があるとは言えど、三絵殿にそこまでやって欲しいとは思ってないし、成仏するのは時間の問題だから放っておいても大事ない。』
とのことだったけど、
「いつまでたっても成仏してないんじゃどうにもできないだろうし現にこれまでずっと成仏できてないじゃん。」
と言い負かして無理やり家に連れてきた。
…相当なおせっかいだとは思ってる、だけど、もともとはこれが素の自分だったから。
雲流丸の言葉が昔のあたしを肯定してくれるようだったから。
お礼をしたいと思えたんだ。
二階のあたしの部屋について、雲流丸と話をした。
「とりあえず、目標は今年中に成仏することね!」
『そ、そんなに早く!?』
「何よ、文句あるの?」
『いや、無いが…。』
戸惑っている雲流丸を見てあたしは笑顔を向ける。
「じゃあ、協力するから頑張ろう!」
『よ、よろしく頼む!』
これが、すべての始まりだった。
