第一章


あんなことがあったのだから、あたしは幽霊の存在を認めざるを得なくなった。

「あの看護師さんね、たまにああなるのよ。」
無事に逃げ切れたとはいえ、二の腕や少しのすり傷を負っていたあたしはお医者さんの手当を受けていた。
「たまに、ですか?」
「うん、そう。」
はあと困ったようにため息をつくとお医者さんはこう言った。
「たまに、発狂するの。精神の病気なんじゃないかって言われてはいたんだけどね、本人がまだここで働きたいって言ってて…。」
もしかしたら、看護師さんはあたしとは違って見えてはいなかったのかもしれない。見えていないから、あの淀んだ塊みたいなものに気づけずにそのままのっとられたんだと思う。
だけど、このことはお医者さんには信じてもらえないだろうから、あたしはそのままお医者さんの話を聞いていることしかできなかった。
『そうでござるか…。』
あたしは病室に戻ってきて待ってくれてた雲流丸にあの後どうなったのか話した。
「うん、あの看護師さんしばらくは休養して復帰する予定だけど、これまでも数回こういうことがあったみたいだから、本人も辞職を考えているかも、だって。」
事情を知っているあたしはなんだか罪悪感を覚えた。
「…あたしが、病室を出たから」
『三絵殿。』
ふわりと目の前に来た雲流丸の真剣な顔を見て、口をつぐんだ。
『三絵殿は、それがしを追って部屋を出たのでござろう?』
「う、うん。」
『他者を傷つけるつもりは全くなかったのでござろう?』
「…うん。」
『ならば、それがまことのことであろう。』
「……え、どういうこと?」
『悪いのはあの悪霊であって、三絵殿のせいでは決してないということ。』
「……。」

『気にするな。』

その言葉を聴いたときに、あたしは

『…む?』

あたしは

『むむっ!?』

泣いてしまった。

『な、え、ど、どうした三絵殿!?』
心配する雲流丸を傍目にあたしは自分でもなぜこうなったのかわからなかったけど嗚咽を堪えながら精一杯こう言った。

「…っく、なんっ、でも、ないっ!」
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