第一章


(何、こいつ…!)
今まで見てきた奴らは多少なりとも人の形を保っていた。でもこいつは違う。
禍々しいオーラをまとっていて、まるで人のおぞましい感情が集まってできたような集合体のようだった。
何か色んな人の声が聞こえるけれど、どれも恨みがこもっているような…。
(…とりあえず、病室に帰った方が絶対に安全!)
そう思ったあたしはとっさに自分の病室に帰ろうとした。

「あれ?」

そこであたしの動きを止めたのは、ここにいる化け物ではなく、あのやけに丁寧な口調の看護師さんの声だった。
「消灯時間はもう過ぎていますよ。」
「あ…すみません、すぐに戻りますから。」
そう言って看護師さんから背を向け自分の病室に走って帰ろうとした。

…ビュン!

後ろから風を切るような音がして振り向いた時にはもう遅かった。あたしの二の腕から熱い感覚が襲ってきた。
(出血してる…!?)
こんな事ができるのは―――――

「病院内で、走ってはいけませんよ?」

同じ声のはずなのに、何かが違う気がした。
「看護師さん…?」
「ああ、ついうっかり注射器を投げてしまいました。」
そんなうっかりがあってたまるものか。
看護師さんを見てみるといつもはほぼ無表情のはずなのに、薄ら笑いを浮かべていた。

いや、そんなことはどうでもいい。

問題なのは、さっき見た化け物がまとっていたオーラみたいなのが看護師さんにもあるという事だ。
「ところで…。」
「…はい。」
「私たちが、視えているんですよね?」
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